2021年4月のよく晴れた日の午後の数秒間、カリフォルニア州の主要送電網で再生可能エネルギーがそれまでの記録を更新し、94.5%の需要を満たす電力を供給した。この瞬間は、脱炭素化への道の重要な節目として称えられた。しかし、日が沈み、風が止まったらどうなるのか。
再生可能エネルギーの発電量の変動に対処するには、一度に数時間あるいは数日間のぶんの電力量を、安価に貯蔵できる電池が必要となる。新しいタイプの鉄系電池が、その役割を果たせるかもしれない。
オレゴン州に本社を置くESSが製造する電池は、4時間から12時間のぶんの電力量を貯蔵できる。ESSは2021年に同社初のグリッドスケール(送電網用蓄電池)のプロジェクトを立ち上げた。一方、マサチューセッツ州を拠点とし、2021年に2億4000万ドルの資金を調達したフォーム・エナジー(Form Energy)は、最大100時間ぶんの電力量を貯蔵できる電池を開発した。この電池は、2023年に完成予定のミネソタ州の1メガワットの試験設備に初めて導入される。
両社とも、地球上で最も豊富に存在する材料の1つである鉄を使用した電池を主力としている。つまり、両社の製品はゆくゆく、リチウムイオン電池やバナジウムフロー電池などの他の送電網用蓄電池の候補より安価となる可能性がある。フォーム・エナジーは、同社の電池コストが最終的に1キロワット時あたりわずか20ドルになるとしている。今後数十年のリチウムイオン電池のコストの楽観的な予測よりも安価だ。
対処すべき課題もまだある。通常、鉄系電池は効率が低い。つまり、電池に蓄えたエネルギーの結構な割合が回収できない。望ましくない副反応により、時間とともに劣化する可能性もある。だが、鉄系電池は、十分安価に広範囲に配置できれば、世界のより多くの地域に再生可能エネルギーで電力を供給するのに役立つ可能性がある。
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MITテクノロジーレビューの「ブレークスルー・テクノロジー10」2022年版の一環として、世界中で送電網用蓄電池として鉄系電池を導入するというESSの意欲的な計画に関する記事をこちらで紹介している。