新型コロナウイルス感染症以前は、季節性インフルエンザがほぼ毎年流行していた。毎年、世界でおよそ29万〜65万人が亡くなっていると推定されている。インフルエンザワクチンは存在するものの、インフルエンザウイルスは変異しやすいため、製造したワクチンが十分に効くとは限らないという課題がある。この課題は、変異を繰り返す新型コロナウイルスにも当てはまる。
イェール大学の森山美優(Miyu Moriyama)は、あらゆる変異株のインフルエンザウイルスに有効な「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発を目指している。森山は研究を進める中で、鼻や肺の呼吸器粘膜からワクチンを投与することで、異なる変異株にも有効な粘膜免疫を獲得できることを明らかにした。これは、従来の皮下注射では不可能だったことである。
こうした粘膜免疫研究の成果を活かし、現在はペンシルベニア大学などとの共同研究として、インフルエンザの経鼻ワクチンとなるPrime and HA(国際特許出願中)の研究を主導している。従来の注射型ワクチンが血液を介して全身に免疫記憶細胞を届けるところを、それに加えてPrime and HAでは免疫記憶細胞を呼吸器粘膜に保持するのが大きな特徴である。経鼻ワクチンは注射針を使わないため、実用化された際には接種率の向上も期待できる。
また、一般的なワクチンの中には、十分な免疫応答を引き起こしてワクチン効果を高める「アジュバント」という物質が含まれているが、経鼻投与の場合、まれにアジュバントが重篤な副反応を引き起こすことがある。森山が開発しているPrime and HAにはアジュバントが含まれておらず、有効性と安全性の両立を掲げている。
Prime and HAのようなユニバーサルインフルエンザワクチンが実用化されれば、季節性インフルエンザによる影響を大幅に減らすことができるだろう。さらに、同様の技術を新型コロナウイルスなど他の呼吸器感染症に応用できれば、今後のパンデミックへの備えにもなると期待できる。
(島田祥輔)
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