ドローンは今や、手軽な空撮機材あるいは輸送機材として、測量や物流など多岐にわたって使用されている。だが、長期にわたる地上観測や災害監視に利用しようとする場合には、航続時間の短さが致命的な欠点として指摘されている。一方、人工衛星は、常時滞空できるものの、打ち上げや運用にコストがかかるうえ、地上分解能が低く、静止衛星を除いて定点滞空ができない欠点がある。
東京大学工学系研究科航空宇宙工学専の助教である森田直人(Naoto Morita)が研究・開発しているのは、まさに両者の「いいとこ取り」と言える「HAPS(High-Altitude Pseudo-Satellite)」と呼ばれる無人航空機だ。HAPSは、高度20キロメートル付近を滞空し続けることが可能で、任意の場所で待機しながら定点を観測するだけでなく、すばやく移動して滞空地点を変更できるため、人工衛星と無人航空機の両方のメリットを活かせる。
HAPSにはさまざまなタイプがあるが、近年の技術向上により、翼とソーラーパネルを備えた固定翼型のHAPSの実現が見えてきた。固定翼型HAPSの性能を向上させ、滞空時間を長くする効果的な方法の一つとして、主翼の横幅を大きくすることがある。だが、細長い翼には、飛行時にかかる荷重で折れてしまったり、変形して飛行性能を悪化させたりする問題点がある。
そこで森田らの研究チームが採用したアプローチが、細長く柔軟な翼の構造の変形を飛行中に制御することで「柔らかい機体を強引に飛行させる」ことだ。構造の変形を制御するカナード(先尾翼)を3枚取り付け、これらを独立に制御することで飛行を安定化し、風などの外乱による機体への負荷を低減させる方法を考案。2022年3月には、スケールダウンした技術実証機の定常飛行に成功した。
研究チームによると、こうした能動空力弾性制御技術による実験機の飛行は日本初で、複数カナード形態の無人航空機の飛行実証は世界初だという。同チームは2024年夏には高度150メートル以下での現在の最長滞空時間記録である82時間という記録を打ち破るべく、大型の技術実証機の製作を進めているところだ。
(中條将典)