眼鏡や補聴器といった五感を拡張する装具は、生活の質(QOL)の向上に欠かせないものだ。だが、人間の五感は日常的な疲労度合いによって変化するため、本来であればその時々の生活の場面に適応して五感拡張を制御することが理想的だ。
大西鮎美(Ayumi Ohnishi)が研究しているのは、ウェアラブルデバイスで日常的に五感をセンシングし、疲労度に応じた制御やサービスの提供を可能にするシステムである。ウェアラブルセンサーで得た複数のデータから、ユーザーの疲労度を機械学習で推定。疲労の予兆を人工知能(AI)で検知し、ユーザーが元気な時と同等の能力を得られるように、五感拡張デバイスを調整する。たとえば、眼鏡であれば明るさや見やすさ、補聴器であれば音量を自動的に調整することで、「疲れを克服できる」スマートな五感装具を実現できる。
大西は、ウェアラブルデバイスの普及のボトルネックとなっている、電源供給の課題解決にも取り組んでいる。衝撃発電シューズを用いて、充電なしで行動を認識できるシステムを開発している。
さらに、シューズ型のセンシング・デバイスを活用した足圧バランス計測、家事スキル計測技術を活用した家事の動作分析、東京パラリンピックにおけるボッチャ・チームの動作解析など、大西の活動は多岐にわたっている。日常生活におけるさまざまな課題をウェアラブルデバイスの進展によって解決しようと挑む、気鋭の研究者である。
(元田光一)