KADOKAWA Technology Review
×
起業家
35歳未満のイノベーター[日本版] 2022起業家
先進的なテクノロジーによって新しいビジネスを創造し、古いやり方を覆す。

Ryuichi Onose 小野瀨隆一 (31)

所属: クライフ(Craif)

尿検査でがんリスクの早期発見。「痛みのない」高精度な検査を実現。

がんは早期に発見して治療できれば生存率が上がるとされている。例えば、卵巣がんの5年相対生存率は、遠隔転移にまで至るほど発見が遅れると23.9%だが、ステージの早い限局のときに発見できると92.5%と非常に高い(国立がん研究センター「がん種別統計情報」による)。

小野瀨隆一(Ryuichi Onose)がCEOを務めるクライフ(Craif)は、同社のビジジョンである「人々が天寿を全うする社会の実現」を目指し、がんの進行の指標となるバイオマーカーを、尿を用いて検出、解析する。尿は、簡単で非侵襲的(体を傷つけない)、高精度に検査できるという条件を兼ね備えている。クライフが開発した尿検査はがん種の分類にも成功している。小野瀨は、「がん種が分かってはじめて追加検査を実施できるため、この点にこだわって研究開発を進めてきた」と話す。

小野瀨は大学卒業後に商社に入社し、サイドビジネスを始めたことをきっかけにスタートアップに関心を持つようになったという。起業するときに考えたのが「人類の進歩に貢献したい」ということだった。社会に大きなインパクトを与えるのはがんであり、祖父母をがんで亡くしたことも事業展開の後押しとなった。

小野瀨自身は医療やバイオ研究の経験はないが、がん早期発見検査の精度の低さを知り、事業に賛同する専門家を採用して技術を高めていった。ナノバイオマーカーを効果的に捕捉、計測、分析、データベース化する「NANO IP(NANO Intelligence Platform)」を構築し、がんに関わる細胞間のクロストークを高精度に読み取るがん検査を開発。成果は国際学会でも発表され、2022年2月に全国の医療機関で『マイシグナル(miSignal)』シリーズとして提供を開始。現在では一度に最大で7つのがん種(大腸がん、肺がん、胃がん、乳がん、すい臓がん、食道がん、卵巣がん)をがん種別にリスク判定できる検査に進化し、2022年11月には自宅完結型検査の販売もスタートした。

クライフが分析する主な分子は、miRNA(マイクロRNA)というもので多くの種類があり、がんに限らずさまざまな疾患と関連するものがある。製薬企業などに向けてR&Dサービスも提供しており、クライフは数々の疾患の早期発見に貢献するプラットフォーマーになる可能性も秘めている。

(島田祥輔)

人気の記事ランキング
  1. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
  2. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  3. This startup just hit a big milestone for green steel production グリーン鉄鋼、商業化へ前進 ボストン・メタルが1トンの製造に成功
  4. This artificial leaf makes hydrocarbons out of carbon dioxide 人工光合成が次段階へ、新型人工葉が炭化水素合成に成功
人気の記事ランキング
  1. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
  2. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  3. This startup just hit a big milestone for green steel production グリーン鉄鋼、商業化へ前進 ボストン・メタルが1トンの製造に成功
  4. This artificial leaf makes hydrocarbons out of carbon dioxide 人工光合成が次段階へ、新型人工葉が炭化水素合成に成功
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る