脳は大量の神経細胞と、その周りを取り囲む支持細胞(グリア細胞)などから構成されており、多くの研究者が脳の研究に取り組んでいる。東北大学学際科学フロンティア研究所助教の郭媛元(Yuanyuan Guo)は、独自に開発したファイバーを用いて複雑な脳機能の解明を目指している。
郭は中国電子科技大学を卒業後、東北大学工学研究科電子工学専攻の修士課程に入り、半導体バイオセンサーに関する理論モデルを構築し、センサー動作のパラメーターを最適化した。この高性能であるバイオセンサーを生体の測定に応用するため、博士課程は同大学医工学研究科に進学。脳の複雑さと美しさに魅了され、マサチューセッツ工科大学(MIT)やバージニア工科大学への留学の中で、脳活動を測定するためのファイバーの開発に取り組んできた。
ファイバーは光通信用に使われることが多いが、郭が開発したファイバーは電極、薬剤注入用微小流路、バイオセンサー、アクチュエーターの機能も集積できるものだ。いわば多機能ファイバーであり、脳内で細胞同士が情報をやり取りするための化学信号の計測を実現する。脳内の可視化では、遺伝子改変技術を用いて蛍光分子などの標識を用いることが多いが、多機能ファイバーは1本だけで「そのままの脳」の様子を測定できるのが特徴だ。
郭は日本の科学技術振興機構(JST)の「創発的研究支援事業」に2020年度に採択され、より高性能な多機能ファイバーの研究開発を学際的に推進している。
将来は、脳内だけでなく、汗に代表される皮膚情報などの多様な生体信号も同時に測定することで生体全体のシステム動作の原理の解明も目指す。精神疾患や神経疾患のメカニズム解明や早期診断・治療法の開発にもつながるかもしれない。脳・身体・周囲環境の相互作用について、多機能ファイバーによる測定と操作で解明しようという挑戦的な研究だ。
(島田祥輔)