機械学習を使った画像認識などのタスクでは、大量の計算機資源と電力が必要だ。特に「ムーアの法則」の行き詰まりに伴い、最先端の半導体チップはコスト高となっており、AIチップを大量に必要とする自動化(オートメーション)技術が普及する上での障壁となっている。こうした事情を背景に、AIアルゴリズムを実行するための処理を、従来の汎用型CPUやGPUよりも高速・低電力で実行できるAI特化型チップの開発競争が各国で盛り上がっている状況だ。
東京大学講師の小菅敦丈が開発した布線論理型(ワイヤードロジック)AIプロセッサーは、人間の脳と同じように、半導体チップ上に集積された演算素子間でダイレクトにデータを流し、メモリーを介さずに大量のデータを並列処理処理する。これによって、データをメモリーに保存して時分割で処理するノイマン型プロセッサーに比べて、消費電力を抑えた高速な処理を可能とするものだ。小菅はFPGA(Field Programmable Gate Array)での実証において、AI処理に一般に使われる汎用GPUに比べて256分の1の低消費電力化を確認。さらにFPGAではなく専用チップを製造すれば、4100分の1にまで抑えることが可能という。
このAIチップによって小菅が目指すのが、将来の働き手の確保が深刻な社会問題になっている製造業の自動化だ。小菅のもう1つの成果である「伝送線路結合器(TLC:Transmission Line Coupler)」は、基板上に結合器を形成し、対向した結合器間で生じた近接場電磁界を介して無線接続する技術である。基板が筐体で密封されるので粉塵や水分に強く、耐震性も高い。小菅の技術は、粉塵や油分に晒された状態や、ロケットと同じ振動強度下で、USBなどの最先端高速通信と同等の通信性能を達成。過酷な環境でも高い信頼性で動作できる。
さらに小菅は、チップ設計コストを削減するためにAIを活用した自動設計技術の開発にも取り組んでいる。かつて日本が成功を収めていた半導体産業の復活にもつながる、挑戦的なイノベーターと言える。
(中條将典)
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