日本は、2021年9月現在で総人口における高齢化率(65歳以上人口割合)が29.1%にも上る世界一の高齢化社会だ。この割合は今後も上昇を続け、2040年には35%を超えると見込まれる。少子化と相まって、介護現場の人材不足はすでに深刻な状況にある。
「介護にロボット技術を導入したい」という明確な意志を持ち、千葉工業大学未来ロボティクス学科へ入学した宇井吉美が取り組み続けているのは、介護現場での負担感が大きい「排泄ケア」をテクノロジーで軽減することだ。
在学中の2011年、研究テーマであった排泄センサーを製品化するために起業。経営者として資金調達や事業戦略の策定・実行をしながら自らも技術者として開発に携わった。宇井らが開発した「Helppad(ヘルプパッド)」は、センシング技術と人工知能(AI)技術を使い、便や尿の「におい」で排泄を検知する機器。専用の吸引シートをベッドに敷くだけで使用できるため、身体に機器を装着する必要がなく、少ない負担で導入できるのが特徴だ。2019年には大手介護ベッドメーカー・パラマウントベッド社と共に製品化を果たした。
排泄パターンを把握すれば、高齢者の生活パターンを把握できる。適切なタイミングに的確なケアができれば介護者の負担も軽減され、双方のQOL(生活の質)が上がる。ただ一方で、排泄データは高齢者の尊厳に関わるものであるため、取得に当たって理解と協力を得られる介護施設を確保するのは至難の業だった。そこで宇井は、起業と並行して介護の資格を取得し、3年にわたって週末は介護職に従事しながら現場のニーズを汲み取った。その過程で介護現場の人々からの信頼を得て、開発に協力してくれる介護施設を確保した。
現在は、介護IoTセンサーから収集した情報を基に、高齢者の排泄を中心とした生活サイクルと介護現場の業務サイクルを合わせ、AIを用いて最適な介護スケジュールをレコメンドするシステムを開発している。将来的には、収集したデータから介護ノウハウを集約し、誰もが介護できる社会を実現していく考えだ。
(畑邊康浩)