農村部での耕作放棄地が問題になっている。高齢化や後継者不足から農家を廃業した後も放置されたまま、荒廃した土地が各地で増えているのだ。
政府は自治体に対して農地の定期的な調査を義務付け、現状把握に努めているが、全国でおよそ3000万筆とされる農地を確認する作業には膨大な手間がかかり、大きな負担となっている。区域ごとに担当者が農地を歩き回って目視で確認し、その結果を紙の地図に記載。最終的に台帳システムに手入力しているからだ。
坪井俊輔がCEOを務めるサグリは、手間がかかる農地の調査を、人工衛星を使ったリモートセンシング・データと機械学習を使って自動化するアプリケーション「ACTABA(アクタバ)」を開発した。坪井らは、人工衛星の各種センサーが検知した波長の反射値から、土地の状態を判定するように機械学習モデルを訓練。耕作地と耕作放棄地を高い精度で自動的に判定できるようにした。判定結果をもとに目視で確認し、その結果を取り入れることで、さらに精度を向上できるという。
「衛星データを通じて、地球上の農業と環境課題の解決を目指す」という坪井の取り組みは、農地の効率的な管理にとどまらない。人工衛星で取得できる赤色や近赤外の波長データから、土壌の化学的指標であるpHや全炭素量、可給態窒素などを推定する取り組みも始めている。これらの指標を農家に提供することで、圃場土壌の現状を把握し、肥料の削減につなげてもらう試みだ。
さらに、衛星データをもとに世界中の農地の潜在能力を評価し、それぞれの農地に適した作物を選定することや、農地が将来どの程度の価値を生むかを評価し、事業性評価貸付(マイクロファイナンス)を実施することも視野に入れている。
農業支援だけでなく、亜酸化窒素の削減や炭素固定によるカーボン・ニュートラルにも通じる点が評価され、サグリは国連広報機関UNOPSのアクセラレーション・プログラムの5社にも選ばれた。衛星テクノロジーを使って、文字通り地球規模の課題解決に挑むイノベーターである。
(笹田仁)
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