宇宙ビジネスが今、活発化している。かつての、国の威信をかけた官主導の宇宙開発競争の時代から、民間企業が最後の未開拓の地を求めて競い合う時代へと移行しているのだ。主役は、イーロン・マスク率いるスペースXや、ジェフ・ベゾスがオーナーのブルーオリジンなど、宇宙への輸送手段を安価に提供しようという企業だ。だが、すでにその先を見据えていち早く動いている男がいる。ギタイ(GITAI)の創業者であり、CEOである中ノ瀬翔だ。
中ノ瀬が率いるギタイは、ロボットという安価で安全な作業手段を宇宙に提供することで、宇宙空間におけるさまざまな作業コストを100分の1に下げると謳うスタートアップ企業だ。独自の汎用型宇宙ロボットを開発し、国際宇宙ステーション(ISS)内での設備の組み立てなどの作業や、人工衛星への燃料補給や修理、宇宙ゴミ(デブリ)の除去といった軌道上サービス、月面探査・基地開発作業などのロボット化を目指している。
コスト削減の鍵は、「汎用型」だ。宇宙空間ではまだロボット化がほとんど進んでおらず、数少ない使われているロボットは特定の用途に限定した専用型。ギタイが開発中の半自律・半遠隔型ロボットは太陽光発電システムの組み立てのような複雑な作業も99%自律制御で遂行することができる。残り1%の人間の判断が必要な作業も、ロボット上部にあるカメラで撮影した映像をオペレーターが地上から確認しながら指示を出すことでさまざまな作業をこなすことができる。遠隔操作の場合はロボット側から送られる力覚や触感をオペレーターに伝える機能もあり、直感的な操作が可能だという。
ユニークな事業を構想する中ノ瀬だが、自身は宇宙工学やロボット工学のバックグランドを持っていない。だが、これらを独学で学び、過去に起業したテックベンチャー企業を売却した資金をもとに、宇宙ロボットのプロトタイプを作った。そうした行動力や情熱は、SCHAFT(Googleのロボット部門の1つだった)創業者をはじめとする優れたエンジニアを引きつけ、NASAやJAXA(Japan Aerospace Exploration Agency)をも動かしている。JAXAとは地上での共同実証実験を実施し、2021年半ばには米国企業と共同で、国際宇宙ステーション(ISS)での初の実証実験を実施する予定だ。「これが我々の宇宙への第一歩となります」と中ノ瀬は言う。
(元田光一)
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