MITメディアラボの研究者である中垣 拳は、革新的なユーザー・インターフェイスを次々と生み出す発明家だ。
私たちが日常的に使っているマウスやキーボード、ディスプレイといったユーザー・インターフェイスは、文字どおり、コンピューターと人間との間を取り持ち、相互にやり取りするために欠かせない存在だ。人間が機械を扱う上でもっとも重要な要素がインターフェイスであり、裏を返せばインターフェイスは人間が機械を扱う上での一種の制約になっているとも言える。
そうした「インターフェースによる制約」を取り払い、コンピューターと人間の意志疎通をもっと直接的なものにしようとするのが、MITメディアラボの石井 裕教授(Hiroshi Ishii)が提唱する「タンジブル・ユーザー・インターフェイス(tangible user interface)」という概念である。中垣は、この石井教授のアイデアに、ロボット工学技術や素材の感覚を融合させることで、革新的で手触りのあるユーザー・インターフェイスを具体化している。
例えば、2015年に発表された中垣の代表作の1つである「ライン・フォーム(LineFORM)」は、ヘビのようにクネクネと曲がる紐状のインターフェイスのプロトタイプである。小型のモーター群を連結して作られたこのインターフェイスは、個々のモーターが回転して連結部の角度を調整することで、腕や手に巻き付いたり、円や直線のような形状に変形したりする。この動きによってコンピューターは情報をユーザーに伝達したり、逆にユーザーの意図をコンピューターに伝達したりできる。2016年には可動部をモジュール化し、モジュールを繋げたり外したりして拡張できる改良版の「ChainFORM」も発表された。
現在中垣は、「ハーミッツ(HERMITS)」と呼ばれる新しいプロジェクトを進めている。ハーミッツは、複数の小さなロボットがモジュールと協調してドッキングし、再構成可能な物理的な機能を作り出すというユニークなものだ。
最先端のテクノロジーを駆使しながらも、日常的な素材や道具に着想を得て作られるという中垣のインターフェイスは、どれも斬新で遊び心にあふれ、手触り感のある新しい体験を創る。その功績は、国際的なHCI(human-computer interaction)関連の学会での評価に加え、デザインやアート分野における受賞歴でも証明されている。ロボットやインターフェイスの間を自由に行き来する中垣の柔軟な発想は、いずれ機械と人間との新しい関係性を築いていくはずだ。
(元田光一)
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