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シャンクン(エルビス)・ツァオ(32歳)は、航空業界のカーボンニュートラル化を目指している。彼は、光合成を模倣し、二酸化炭素を航空燃料に変換する装置を開発した。
国際エネルギー機関(IEA)によると、航空業界は世界の二酸化炭素排出量の約2%を占めている。光・二酸化炭素・水を反応器に投入して合成燃料を生成する「人工光合成」は、脱炭素化の手段として注目されてきた。しかし、研究者たちはこのテクノロジーの大規模展開、低コスト化、効率向上という課題に直面していた。
光触媒反応器を使ってCO₂を有用な化学物質に変換する技術は以前から存在したが、ツァオの装置は、光・水素・二酸化炭素・熱の供給効率を飛躍的に向上させるため、異分野の技術を融合した優れた工学設計がなされている。光学の分野から着想を得て「導波管(ウェーブガイド)」と呼ばれる構造を活用し、光を反応が起こる領域に集中的に照射する。また、「バッフル」と呼ばれる特殊なパネルを用いてCO₂と水素を効率よく混合する。このバッフルは家庭用コンロからロケットエンジンに至るまで幅広く使用されている。さらに、相変化材料(PCM)を用いることで、固体と液体の状態を行き来しながら熱を吸収・放出し、反応器の温度を最適に保つ。
ツァオの装置は、吸収したCO₂の約半分を一酸化炭素(CO)に変換する。変換率は、従来の同様の反応器の20倍も高い。この一酸化炭素を水素と混合することで、航空燃料の主要原料となる化合物が生成される。
ツァオの技術を基にしたスタートアップとユナイテッド航空は、今後20年間で3億ガロン(13億6382万7000リットル)の合成燃料を購入する契約を締結している。ただし、この燃料を使用する航空機はCO₂を排出するため、カーボンニュートラルにはなるが、カーボンネガティブ(大気中のCO₂を減少させる)にはならない。
コーネル大学で機械工学の博士号を取得したツァオは、飛行機の排気管の後部に装置を取り付け、リアルタイムでCO₂を燃料に変換するシステムを開発したいと考えている。これが実現すれば、排出された二酸化炭素が大気中に拡散するのを防ぐことが可能になる。
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