ジュリア・カーペンター(33歳)は、従来の1000倍の表面積を持つ金属発泡体を、シンプルかつ低コストで製造する方法を開発した。この新素材はヒートシンク(放熱器)として機能し、マイクロプロセッサーやその他の電子機器の冷却に必要なエネルギーを削減できる可能性がある。
現在、人工知能(AI)、クラウドコンピューティング、暗号通貨の処理を担うデータセンターのエネルギー消費の約40%は冷却に使用されている。同様の冷却技術は、産業製造プロセスや電気自動車のバッテリーにも応用されている。
これまで、電子機器の冷却には金属板で作られたヒートシンクを使った液体・空冷システムや、冷媒とコンプレッサーを使用した冷却システムが主流だった。しかし、これらのシステムは高コストであり、維持管理が難しく、故障しやすい。また、製造過程で大量の温室効果ガスを排出するという課題もあった。
金属発泡体の技術自体は約1世紀前からあったが、これまでの製造プロセスはプラスチックのテンプレートを作り、それを金属で置換する多段階の工程を必要とし、コストが高すぎるため商業利用が進まなかった。
「私たちはこのプロセスを根本的に変えました」とカーペンターは語る。
カーペンターの手法では、鉄、ニッケル、ステンレス鋼などの金属粒子を含むスラリー(液状混合物)に、1ミクロンサイズの微細な気泡を含ませ、それを格子状の構造へと流し込む。彼女はこのプロセスを「キッチンでメレンゲを作るようなもの」と表現する。
スラリーを空気乾燥させた後、600〜1700℃の温度で加熱することで、構造が固まり、極めて多孔質な軽量素材が完成する。この素材は、あまりに軽いため水に浮くほどだ。
カーペンターは、この技術を市場に投入するために、スイスで「アフェロス(Apheros)」を設立した。すぐに産業界の顧客が次々と集まったという。