KADOKAWA Technology Review
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35歳未満のイノベーター35人 2024材料科学
太陽電池、半導体、医療機器を構成する材料は、その特性や性能を大きく左右する。これらの技術をはじめとする多様な分野で活用できる新しい材料を開発しているイノベーターたちを紹介する。

Julia Carpenter ジュリア・カーペンター (33)

所属: アフェロス(Apheros)

コンピューターの冷却による排出量を削減する金属発泡体を製造。

ジュリア・カーペンター(33歳)は、従来の1000倍の表面積を持つ金属発泡体を、シンプルかつ低コストで製造する方法を開発した。この新素材はヒートシンク(放熱器)として機能し、マイクロプロセッサーやその他の電子機器の冷却に必要なエネルギーを削減できる可能性がある。

現在、人工知能(AI)、クラウドコンピューティング、暗号通貨の処理を担うデータセンターのエネルギー消費の約40%は冷却に使用されている。同様の冷却技術は、産業製造プロセスや電気自動車のバッテリーにも応用されている。

これまで、電子機器の冷却には金属板で作られたヒートシンクを使った液体・空冷システムや、冷媒とコンプレッサーを使用した冷却システムが主流だった。しかし、これらのシステムは高コストであり、維持管理が難しく、故障しやすい。また、製造過程で大量の温室効果ガスを排出するという課題もあった。

金属発泡体の技術自体は約1世紀前からあったが、これまでの製造プロセスはプラスチックのテンプレートを作り、それを金属で置換する多段階の工程を必要とし、コストが高すぎるため商業利用が進まなかった。

「私たちはこのプロセスを根本的に変えました」とカーペンターは語る。

カーペンターの手法では、鉄、ニッケル、ステンレス鋼などの金属粒子を含むスラリー(液状混合物)に、1ミクロンサイズの微細な気泡を含ませ、それを格子状の構造へと流し込む。彼女はこのプロセスを「キッチンでメレンゲを作るようなもの」と表現する。

スラリーを空気乾燥させた後、600〜1700℃の温度で加熱することで、構造が固まり、極めて多孔質な軽量素材が完成する。この素材は、あまりに軽いため水に浮くほどだ。

カーペンターは、この技術を市場に投入するために、スイスで「アフェロス(Apheros)」を設立した。すぐに産業界の顧客が次々と集まったという。

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