毎年、世界中の農業において数百万トンの農薬が使用されている。これらの化学物質は、何百億ドルもの市場を支える一方で、環境汚染を引き起こし、生物多様性に悪影響を及ぼす。しかし、それでも完全な防除は実現されていない。 「農家は依然として作物の20~40%を害虫や病気によって失うことを覚悟しなければなりません」と、アンディ・ウォレス(33歳) は語る。彼女は、化学農薬の欠点を克服するために、作物保護のための遺伝子改変微生物を開発している。
ウォレスは、MITの博士課程で学んでいた際に、珪藻(ケイソウ)と呼ばれる微小な海洋生物がどのようにして微細なガラス構造を形成するのかを研究していた。 それと並行して、彼女は自宅で野菜を栽培するうちに、植物の微生物生態系に強い関心を抱くようになった。植物の葉や根、花びらには無数の微生物が存在し、それらは栄養の吸収を助け、病害から植物を守る役割を果たしている。そこで彼女は、「もしこれらの微生物を改変し、化学農薬と同等の機能を持たせることができたらどうなるだろうか?」と考えた。
このアイデアを実現するため、ウォレスはロビンゴ(Robigo)という企業を共同創業した。最初の標的としたのは、トマトに病害を引き起こす細菌であった。ウォレスのチームは、まず植物に自然に存在する無害な微生物を選び、それにCRISPR(クリスパー)システムを組み込んだ。このCRISPRシステムは、有害な細菌のDNAの特定領域を切断し、それによって細菌を死滅させるものだ。微生物は周囲の細菌とDNAを共有する性質を持つため、このCRISPRシステムが伝播し、連鎖的に有害な細菌を破壊できる可能性がある。
ウォレスのチームが実施した初期の未発表試験では、この遺伝子改変微生物で処理したトマトが、処理していないものと比較して15~20%成長し、病害の症状が90%減少する という結果が得られた。しかし、初期のフィールド試験では、期待した効果が確認されなかった。それでもウォレスはめげない。「私たちの微生物を実際の農地で試験できたこと自体が、会社にとっても、合成生物学という分野にとっても、大きなマイルストーンだと考えています」。