ジョジー・キシ(31歳)は、「Light-Seq(ライト・シーク)」という技術を共同開発した。これは、細胞を顕微鏡で観察しながら、その遺伝子配列を解析できる画期的な技術である。これまで、この2つの手法を同時に実行することは不可能とされていた。Light-Seqは、病気の研究や新薬の開発、がんをはじめとする病状の治療計画に大きな影響を与えると期待されている。
「従来の方法では、困難な選択を迫られます」とキシは語る。「顕微鏡を使えば、細胞がどこにあるのか、互いにどう相互作用しているのかが分かります。一方で、RNAシーケンシングを用いれば、その細胞が何をしているのかを理解できます。しかし、どちらか一方しか選べないのです」。
実際、サンプルを片方の方法で処理すると、もう一方の手法には適さなくなってしまう。これは大きな損失である。なぜなら両方の手法が提供する情報は、それぞれ独自の重要な視点を持っているからだ。もし、この2つを統合できれば、得られる知見はさらに増えるはずである。
キシは、コンピューター業界の技術にヒントを得て、この問題を解決した。彼女は、シリコンチップのリソグラフィ(半導体の微細加工)技術を応用し、細胞の遺伝子情報を保持したまま、顕微鏡観察を可能にする手法を開発した。まず、サンプルをバーコードDNAの微細な断片を含む溶液に浸す。強い光を特定の領域に照射すると、その部分にのみDNAバーコードが結合する。その後、光学的にサンプルを観察し、通常のシーケンシング装置を用いて組織の遺伝子解析を実施する。
さらに、このバーコードのラベリング・プロセスは、何度も繰り返し適用可能である。異なる種類のDNAバーコードを用いることで、異なる細胞構造や細胞タイプ、特定領域をそれぞれ識別できる。これは、異なる色のインクで異なる種類の単語を下線で強調するようなものだ。こうして、同じサンプル内の複数の構造を、その遺伝子配列や機能とマッチングさせることが可能となる。
新型コロナウイルスのパンデミック時に、バイオンテック(BioNTech)やモデルナ(Moderna)といった企業がワクチンを驚異的なスピードで開発したことに感銘を受けたキシは、デジタル・バイオロジー(Digital Biology)を共同創業した。同社はLight-Seqを活用し、病気の形成メカニズムの解明に取り組む。将来的には、特定のバイオマーカーを持つ患者において、がんの再発を防ぐために最適な薬を特定したり、特定の疾患に対する治療法を選択したりする技術に発展させることを目指している。