私たちの免疫システムは、何百種類ものタンパク質が信号を送り合い、何十種類もの細胞と相互作用する非常に複雑なネットワークである。アン・クイ(34歳)は、機械学習を用いてこの膨大なデータを解析し、免疫システムの理解を深めるためのツールを開発している。彼女が最初に開発した機械学習モデルは、小児関節炎を研究するためのアルゴリズムであり、学部生としてコンピューター工学を学んでいたときに作成したものだった。
現在、クイは男性と女性の免疫システムが加齢とともにどのように異なるのかを解明するために、この計算技術を応用している。「高齢の男性は感染症やがんのリスクが高い一方で、高齢の女性や女性全般は自己免疫疾患に罹りやすいいことが分かっています」と彼女は説明する。
クイは、健康なボランティアから採取したB細胞(抗体を産生する免疫細胞)の遺伝子変異を解析するツールを開発。98万5000以上の遺伝子変異を分析し、大規模なデータ解析により、抗体の発達に重要な分子経路を特定した。さらに、この経路が高齢の男性と女性で異なる可能性があることも明らかにした。
現在ハーバード大学に所属するクイは、この10年間、ビッグデータを活用して免疫システムを理解する最適な方法を模索してきた。例えば、免疫細胞を指揮するタンパク質であるサイトカインがある。サイトカインは100種類以上存在し、それぞれがおよそ18種類の免疫細胞に影響を与える。こうした複雑な相互作用を全体的に把握することは、これまで「不可能」と考えられていた。「誰も本気で試そうとしませんでした」とクイは語る。
クイはこの課題に挑み、86種類のサイトカインをマウスに注入し、17種類の細胞の応答を測定した。そして、彼女はこのデータを解析する計算ツールを開発し、それぞれのサイトカインがどの細胞にどのような影響を与えるのかを体系的にまとめた。その成果が「Immune Dictionary(免疫辞書)」であり、クイはこれを免疫システムの「周期表」のようなものだと表現している。
この辞書はマウスのデータをもとに作成されたものだが、人間の免疫システムを理解する手がかりにもなる可能性がある。クイと彼女のチームは、この情報を研究者が自由に利用できるように、オンラインで無償公開した。2023年12月の公開直後、予想を上回る人気を集め、Webサイトが一時ダウンするほどアクセスが殺到したという。それ以来、このサイトは18万1000回以上アクセスされている。
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