
2024年11月、英国政府は世界初の「AI安全サミット(AI Safety Summit)」をブレッチリー・パークで開催した。この場所は、第二次世界大戦中にアラン・チューリングが暗号を解読したことで知られている。招待者リストは非常に豪華だった。
集まったのは、当時の米国副大統領のカマラ・ハリス、欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン、当時の英国首相リシ・スナク、2019年のチューリング賞受賞者ヨシュア・ベンジオ、オープンAI(OpenAI)の最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマン、ディープマインド(DeepMind)の共同創業者デミス・ハサビスら。著名人に混ざって、設立からわずか1年のフランスのAIスタートアップ「ミストラル(Mistral)」の共同創業者兼CEOであるアーサー・マンシュ(32歳)もその中にいた。
AI安全サミットの最上段に立つアーサー・マンシュ(左から2番目)。
WIKIMEDIA COMMONS
欧州のリーダーたちは、ミストラルをオープンAIやその他のシリコンバレーの巨大企業に対抗する存在として歓迎している。「人工知能(AI)テクノロジーがどのように社会を形成していくかについて、欧州が発言権を持つことが非常に重要だと考えています」とマンシュは語る。
マンシュの使命は、AIの分散化を推進し、マイクロソフト、アマゾン、メタ、グーグルといった大手テクノロジー企業が支配する市場に競争をもたらすことである。そのために、ミストラルは多くのAIモデルを無料で提供し、その重み(ウェイト)も公開している。これにより、ユーザーは自らモデルを調整し、カスタマイズが可能となる。また、ミストラルのモデルは異なるクラウド・プロバイダーを通じて利用できるため、移植性が高い。特に、小型モデルのアルゴリズムは効率的で、ノートPC上でも動作可能だ。
しかし、最も注目すべきは、ミストラルのモデルがさまざまなベンチマーク・テストにおいて、米国のトップAI企業が提供する高性能モデルと同等の成果をあげている点である。従業員はわずか65人という若い企業ながら、世界最大級のAI研究機関と肩を並べるモデルを開発しているのだ。これは、限られたリソースの中で驚異的な成果と言えよう。
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