キャサリン・デ・ウルフは人工知能(AI)を使用して、建設業における二酸化炭素排出量や資材の無駄遣いを減らす手助けをしている。建築資材は1度きりしか使用しないという業界の従来の理念から脱却し、建物を取り壊す際に廃棄していた古い建築資材を再利用するという循環理念への移行を支援するのがデ・ウルフの目標だ。そのほうが、新しい建築資材を調達するよりも安くつくからだ。
取り壊される古い建物には、窓、金属、木材などの高価な半完成品がしばしば大量に含まれている。しかし、特定の建物に何が含まれているかを正確には把握できないので、取り壊して廃棄物を埋立地に送る方が通常は簡単で安上がりだ。すると、新たな建築のために新たな資材を生産する必要が生じ、余計な排出物が発生する。
「何らかのツールで建物を簡単にスキャンして寸法や資材タイプ、資材の状態を簡単にデジタル化し、再利用可能な建築資材用の『ティンダー(Tinder、マッチングアプリ)』のようなものに投入できたらどうだろうと考えました」と、デ・ウルフは述べる。
デ・ウルフらの研究チームは、まずグーグル・ストリートビュー、ライダー(LIDAR:レーザーによる画像検出・測距)によるスキャン、建物の書類から得たデータを、自ら構築したAIシステムに投入した。それぞれの建物に含まれる可能性の高い資材や、その資材を使用して将来のプロジェクトを設計する方法を予測できるシステムだ。次に、同チームは回収された資材にQRコードを貼り付けた。このプロセスは建物を新築する際の標準になってほしいとデ・ウルフは願っている。QRコードは、資材の履歴や重要な物理的特性を提供するデータベースにリンクしている。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校で建築学助教授を務めるデ・ウルフの率いるチームは、あるプロジェクトでは、規制の変更に伴って建て替えられていたパリのポンピドゥーセンターの有名なガラスパネルと、それを使用して小さなオフィスルームを建築した企業のマッチングを支援した。別のプロジェクトでは同じ方法で、ジュネーブの古い自動車倉庫から回収した資材のみでジオデシック・ドームを構築した。彼女はさらに、再利用資材を将来のプロジェクトとマッチングするアプリの開発も思い描いている。
(ラス・ジャスカリアン)