クリスティーナ・キムは動物のさまざまな行動に関わる神経細胞を特定する技術を開発した。うつ、不安、薬物・アルコール依存といった精神神経疾患のよりよい治療法へとつながる可能性がある。
ヒトでも動物でも、脳の神経細胞(ニューロン)の種類は数百種にもおよぶ。大きな音、強い匂い、薬物の注入といった特定の刺激に対し、どの種類の細胞が反応するのかを特定することは、長らく困難であった。ヒトの脳と類似点が多いマウスの脳において様々な神経活動を記録する従来の方法は、脳の特定の部位に限られたり、あるいは研究者が調べたいと思う行動を妨げたりするものだった。
キムが博士研究員としてスタンフォード大学在籍中に開発した手法は、ニューロンが発火するとカルシウムがニューロンに流入することを利用して、カルシウム濃度が上昇した細胞を特定するというものである。キムのチームはマウスに遺伝子改変タンパク質を注入し、マウスの脳をブルーライト光線に曝露して、ニコチン注入をはじめとする外的刺激への反応を記録した。カルシウム濃度が高かったニューロンでは、ブルーライトが追加のタンパク質の転写を促進し、このタンパク質(蛍光タンパク質)が、後から顕微鏡による検出を可能にする「タグ」となる仕組みだ。それからキムのチームはRNAシークエンシングを用いて「タグ付け」されたニューロンに存在する改変遺伝子を確認し、実質的に細胞の種類を特定した。
現在カリフォルニア大学デービス校で神経科学の助教授を務めるキムは、「迅速光・カルシウム発現調節(fast light and calcium-regulated expression)」として知られるこの技術の改良に取り組んでいる。脳信号が分子レベルでどのような仕組みになっているかをより深く理解し、最終的には、より的を絞った効果的な治療法の開発促進に役立てたい考えだ。
(ジョナサン W. ローゼン)