張本哲弘(ハーバード大学ワイス・インスティチュート)

Tetsuhiro Harimoto 張本哲弘(ハーバード大学ワイス・インスティチュート)

がんを自動的に検知して攻撃するようにバクテリアを改変することで、「知的な生きた薬」を開発する研究を進めている。 by MIT Technology Review Editors2023.10.31

微生物はあまり賢くない。脳もなければ、神経系もない。しかし、宿主の中で生きることは得意だ。研究では、ヒトの体には一般的に約30兆のバクテリアがコロニーを作り、皮膚上や腸内に生きていることが示されている。腫瘍の中にすら微生物が住んでいる。

しかし、バクテリアを賢くできたとしたらどうだろう。博士研究員の張本哲弘、通称「テツ(Tetsu)」はこの数年間、バクテリアを自動的にがん細胞を検知して攻撃する「知的な生きた薬」へと変える試みに取り組んでいる。

「効果的に腫瘍に寄生し、自律的に環境を感知し、持続・制御可能な形で薬を生成できるように改変した、生きた微生物でできたドラッグデリバリー(薬剤送達)システムの新技術を開発することが、私のビジョンです」と張本は語る。

張本はコロンビア大学の博士課程に在学中、合成生物学のツールを使ってそのビジョンの実現可能性をすでに実証済みだ。あるバクテリアに、悪性腫瘍の中にいるときそのことを検知できる遺伝子を加えたのだ(腫瘍の内部は一般的に低酸素である)。また別のバクテリアには、がん細胞を殺す薬を生成する能力を与えた。

張本の次のプロジェクトは、これらの技術を組み合わせて、がん細胞を検知し、願わくばその場で殺せるバクテリアを開発することである。

(アントニオ・レガラード)