mRNAワクチンとその開発に関わった科学者一人ひとりは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおけるヒーローの一員だった。mRNAワクチンは、実質的に体が自ら薬を作ることを可能にする少量の遺伝子情報を送達することで機能する。現在、米国だけでも3億6千万回分を超えるmRNAワクチンが接種されている。インフルエンザやHIV、がん治療用のmRNAワクチンも開発中だ。
しかし、まだまだ改良の余地は大きい。カナダ・バンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学のバイオエンジニアのアンナ・ブラクニーは、よりよいRNAワクチンを追求する研究を率いる一人だ。既存のRNAワクチンよりも効果的で、予防効果が長続きし、低用量で投与できて副反応が少ないものを目指している。
既存のmRNAワクチンによくみられる副反応として高熱や悪寒などがあるが、血栓など心血管の問題を経験した人もいる。「この領域における現在の最大の課題の一つは、新しいワクチンにみられる安全性と副反応です」とブラクニーは言う。「研究を進める中で、必要な投与量を最小限に抑える方法をぜひとも考えなくてはならないのです」。
そこでブラクニーが焦点を当てたのが、細胞の中に入り込むと自らの複製を作ることができるmRNAの一種、自己増幅型RNA(self-amplifying RNA:saRNA)だ。saRNAであれば理論上は、ワクチンや治療薬における使用量が標準的なmRNAよりも少なくて済む。「100分の1程度の投与量で済みます」とブラクニーは語る。ブラクニーはさらに、mRNAが通常約3日間から5日間タンパク質を生成するのに対し、saRNAは約30日間から60日間生成できると言う。すなわち、saRNAでワクチンを作れば、既存のmRNAワクチンよりも体内で効果が長続きし、ブースター投与の頻度を下げられる可能性があるということだ。
ブラクニーはまた、mRNAに新たな機能を加える方法にも取り組んでいる。ブラクニーが最近率いたプロジェクトの一部では、mRNAがヒトの免疫系からの攻撃をかわすのを助ける新しいタンパク質のコードを活用した。このmRNAは効果が長続きし、より多くのタンパク質を生成できる。「ワクチンとしてよりよく機能します」と、ウサギで同ワクチンの試験をしたブラクニーは言う。
(ジェシカ・ヘンゼロー)