KADOKAWA Technology Review
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開拓者
Lan Truong
35歳未満のイノベーター35人 2021開拓者
核融合、コンピューティング、バイオセンサー、ロボット工学などの分野で重要な進歩に取り組んでいる。

David Rolnick デイヴィッド・ロルニック (30)

所属: マギル大学(McGill University)

AI技術を駆使して気候変動に関する諸問題に取り組むと同時に、気候変動問題に適用可能な新たな機械学習の手法の開発も進めている。

2019年、当時ペンシルベニア大学の博士研究員だったデイヴィッド・ロルニックが筆頭著者として発表した論文は、大きな反響を呼んだ。ロルニックらは論文のなかで、温室効果ガス削減と気候変動への社会の適応に機械学習がどのように貢献できるかを主題とし、エネルギー需要の予測、森林管理、地球規模の気象システム・モデリングなどを論じた。共著者にはディープマインド(DeepMind)の共同創業者兼CEO(最高経営責任者)であるデミス・ハサビスや、チューリング賞受賞者のヨシュア・ベンジオが名を連ねた。同年、ロルニックは3つの主要人工知能(AI)学会で、気候変動に関する初のワークショップや、気候変動枠組条約締約国会議(United Nations Climate Change Conference:COP)でのAI関連イベントの主催者を務めた。

「AI業界の目を気候変動に向けさせることに関して、ロルニック博士は絶大な影響力を持っています」と、グーグル・ブレイン(Google Brain)の共同創業者であり、バイドゥ(Baidu、百度)の主任科学者を務めたアンドリュー・エンは語る。「ロルニック博士はAIが気候変動対策にどう役立つかのビジョン形成に一役買い、このテーマに取り組むコミュニティの構築に尽力してきました。この重要なトピックにおける研究活動のかなりの部分は、彼が触媒作用を果たしてくれたおかげです」。

ロルニック博士は現在、マギル大学の研究グループを率い、さまざまなAI技術を駆使して気候変動に関する諸問題に取り組んでいる。例えば、気候変動に関するデータは、インフラ支出の記録から温室効果ガス排出量、あるいは単なる気象パターンに至るまで、国によるばらつきが非常に大きい。しかし、気候を理解するにあたってはグローバルな視点が必要だ。

「発展途上国ではインフラに関する情報が乏しいのが普通です」と、ロルニック博士は言う。「そのため、政策決定者がエネルギー需要や沿岸部の水没リスクに関して何らかの判断する必要があるときに、参照できるデータがあまりないのが現状です」。それに加えて、何を記録し、何を記録しないかについて、各国にはそれぞれ異なる規制がある。例えば、ドイツはソーラーパネルの位置や面積の情報を持っているが、米国は持っていない。そのため研究者は、機械学習を利用して米国のソーラーパネルの情報を衛星画像から推定し、利用している。機械学習はまた、従来の手法より正確に将来のエネルギー需要を予測するのにも利用できるとロルニック博士は言う。これにより、電力会社はより効率的に送電網(グリッド)の管理ができるようになる。

ロルニック博士と共同研究者たちは、気候変動研究に応用可能な、新たな機械学習の手法の開発にも取り組んでいる。

例えば、転移学習アルゴリズムの開発だ。転移学習とは、あるサンプル群を使ってAIモデルを訓練したあと、学習内容を新奇な状況に転移させるというものだ。さらに、小規模あるいは不完全なデータセットからの学習を改善するためのさまざまな手法の総称である、メタ学習の研究も進めている。メタ学習はとりわけ生物多様性モデリングに有用であるとロルニック博士は考えている。実世界のデータソースがきわめて断片的であるためだ。

ロルニック博士はまた、機械学習と気候モデルを組み合わせて、雲の形成などの複雑な物理的・気象学的プロセスをシミュレーションする研究にも関わっている。雲が正確にはどのように形成されるのか、雲が太陽光をどれだけ反射あるいは吸収するのかは、既存の気候モデルにおける最大級の不確定要因だ。気候モデルにおいて雲のシミュレーションをする際に膨大な演算が必要であることが、その一因となっている。機械学習を利用して、いつどこで雲が形成されるかのパターンや、雲がどれだけ太陽光を反射するかを、大気化学的プロセスの解明を待たずに特定できれば、科学者たちはより早くモデルを実行できるようになる。

ロルニック博士らは、AIが気候変動対策になくてはならないツールであることを確信している。だが、一方では、機械学習そのものが気候変動問題の一因となっているという懸念も高まっている。ロルニック博士は、今日の最大規模のAIモデルの訓練には大量のエネルギーが必要だと認めつつ、それでも地球全体の排出量に占める割合としてはごくわずかであると語る。同博士は、AIがもたらす本当の気候リスクは、むしろ石油やガスの採掘といった分野でのAIの使用に関連していると言う。「機械学習それ自体が消費するエネルギーよりも、むしろ気候変動対策に反する用途で機械学習が応用されることに危機感を覚えています」。

(Will Douglas Heaven)

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