ナカツカ・ナコ博士は、脳や体のその他の部位で起こる化学的変化を、これまでになく正確に検出できる微小なセンサーを開発している。こうしたセンサーからの情報は、科学者たちがうつ病や認知症の理解を深め、治療にあたるのに役立つだろう。従来のセンサーに比べてナカツカ博士のセンサーは、構造的によく似た化学物質、例えば神経伝達物質やその前駆体、代謝物などを弁別するのに優れている。
現段階では、ナカツカ博士の開発したセンサーは研究室でのサンプル測定に利用されているが、体内で直接動作し、さらに多様な化学物質を扱えるよう、テクノロジーに改良が重ねられている。
ナカツカ博士のセンサーには、「アプタマー(特定の物質と特異的に結合する核酸分子)」と呼ばれる分子が使われている。アプタマーは、特定の標的に強い親和性を示すように設計することができる。ナカツカ博士が最初に使ったのは、DNAから作った、セロトニンの存在下で形状が変化するアプタマーだった。セロトニンは睡眠や食欲といった身体機能に重要な役割を果たす神経伝達物質で、うつ病や強迫神経症といった精神疾患との関連でも知られる。
のちにナカツカ博士は、直径10ナノメートルしかない極小のピペットの開口部にアプタマーを付着させる手法を開発した。ピペットは電子回路に接続されていて、アプタマーがセロトニンの存在下で変形すると、電子回路にも変化が生じる。このセンサーは脳液や組織のサンプルを測定するだけでなく、ペトリ皿の上、あるいは脳の中の個々のニューロンの付近に配置して直接測定することさえ可能だ。
「パーキンソン病などの疾患をよりよく理解できるようになるかもしれません」と、ナカツカ博士は言う。同博士が開発しているセンサーを使えば、こうした疾患を抱える患者から採取した、あるいは患者の脳内にあるニューロンがどのように機能しているかを、リアルタイムで測定できるようになるだろう。加えて、アプタマーはあらゆる種類の検査に使えるため、ナカツカ博士の手法は、さまざまな疾患や感染症を、従来よりも迅速に、安く、正確に検出できる検査法の確立につながることも期待される。
(Russ Juskalian)