ペンシルベニア大学のマーク・ミスキン助教授は、世界のトップクラスのナノ科学者たちが数十年にわたって探究してきたテクノロジーを実現した。目に見えないくらい小さなロボットだ。ミスキン助教授の極小ロボットは、半世紀以上に及ぶエレクトロニクスの技術革新の延長線上にあり、ヒトの髪の毛の幅よりも小さいシリコンチップの製作が可能になったことで実現した。問題となったのは、ロボットの脳にあたるシリコンチップの回路をどうやって移動させるかということだ。顕微鏡でしか見えない2本の脚を取り付けるという従来の方法は、これほど小さなスケールで稼働させるには、必要な電圧が高すぎた。
ミスキン助教授が編み出した手法は、原子10個分ほどの厚さしかないプラチナのシートの片面に、さらに薄いチタンの層を重ねて脚を作るというものだ。ロボットの脳に取り付けられた太陽電池から電流を流すと、プラチナの部分が曲がり、ロボットは前進し始める。ミスキン助教授がコーネル大学の博士研究員時代に開発した最初のプロトタイプは、わずか0.2ボルトの電圧で動くことができた。サイズは40ミクロン四方で、多くの単細胞微生物よりも小さい。世界最小の歩くロボットとしてギネス世界記録にも認定されており、10センチメートル四方の1枚のウェハーから一度に100万台製造できる。
現時点でミスキン助教授のロボットにできるのは、顕微鏡の下で跳ね回ることくらいだ。しかし、ペンシルベニア大学電気システム工学部の同助教授のラボでは、ミシガン大学の研究チームと共同開発したプログラミング可能なメモリーを備えた「スマートボット」のために脚を製造している。将来的には、極小のロボットに新素材の加工や病害虫の駆除をさせたり、さらには顕微鏡レベルの外科医としてプログラムに従ってがん細胞を一つひとつ破壊させたりしたいとミスキン助教授は考えている。
(Jonathan W. Rosen)