Jacob Becraft ジェイコブ・ベクラフト (30)
新型コロナワクチンで認められたmRNA技術の次のステップとして、体内の免疫細胞に皮膚や乳房にあるがん細胞を攻撃させる研究を進めている。
安全で効果的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンにより、ようやくパンデミックの出口が見えてきた。新型コロナウイルスワクチンの中で最も革新的なものは、メッセンジャーRNA(mRNA)を利用するものだ。mRNAとは核酸のひもであり、これを利用して新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に含まれるタンパク質を細胞に作らせることで、体内でウイルスに対する抗体ができるという仕組みである。科学者たちは今、この基盤技術の持つあらゆる可能性に目を向けている。
「新型コロナウイルス感染症によって、mRNAは有用である可能性があるという程度の認識だったのが、現在では人間に使えるものだと言えるところにまで来ています」と、ジェイコブ・ベクラフト博士は言う。ベクラフト博士が共同創業し、CEO(最高経営責任者)を務めるスタートアップ企業、ストランド・セラピューティクス(Strand Therapeutics)は、mRNAの次のステップの研究に取り組んでいる。つまり、mRNAを「プログラム」し、特定の細胞種で特定の時間にだけ作動させたり、自動的に自己複製して効果を強化したりするなど、有用な働きをさせる新たな方法を模索しているのだ。
mRNAは不安定な分子であるため、その効果は一時的であるが、mRNAを利用する方が、細胞のゲノムを変えようとするよりも多くの点で簡単かつ安全、迅速な方法となる。ストランド・セラピューティクスが研究を進めているアイデアの1つは、mRNAを注射して、体内の免疫細胞に皮膚や乳房にあるがん細胞を攻撃させるというものだ。
ベクラフトCEOが育ったのは、イリノイ州中部の小さな農村だ。第二次世界大戦中、ペニシリンの大量生産方法を発見した連邦政府の研究所があることで有名な場所だ。同CEOは高校時代、細胞のそれぞれの部位に名前が書かれただけの写真には我慢がならなかったと言う。
「単なる暗記物のリストとしてではなく、1つの仕組みとして生物学に触れたのは、大学に入ってからでした。ですが、システムの仕組みがいったん分かってしまえば、理解して想像することができます」。
(Antonio Regalado)
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