ニューラル・ネットワークが実行する演算は2種類に大別できる。一つは訓練であり、一般的に、ネットワークに大量のデータを入力して無数の「ニューロン」の間の接続の強さを調整する。もう一つは、こうしてできた既存のつながりを利用した意思決定だ。両者の違いは、運転免許取得のための教習と、実際の運転にたとえてもよいだろう。
両者の違いは重要だ。ニューラル・ネットワークが画像の識別を学ぶのに数週間かかったとしても、必ずしも問題ではない。だが、ニューラル・ネットワークが自律走行車を走らせている時は、生死を分ける意思決定をコンマ数秒で終える必要がある。
そこで光学コンピューターの出番だ。ただし、光学コンピューターは数十年にわたって研究されてきたものの、実用化はあまりうまくいっていない。光子は電子よりも操作が難しいのだ。けれども、特定のタイプの演算、例えば、訓練済みのニューラル・ネットワークを使った推論の実行においては、光子が適任だ。
2017年にイーチェン・シェンとニコラス・ハリスが発表した、発話認識や画像認識などの機械学習課題における光学回路の利用に関する論文は広く引用された。彼らが提示したデザインは、あるレビュー記事の言葉を借りれば、「光を利用したニューラル・ネットワークの根幹をなす構成要素を真に並列的に実装するものであり、現代の工場では、こうしたタイプの光学システムを容易に大量生産できる」という。つまり、光学チップを利用した光学コンピューターは巨大産業へと成長し、ニューラル・ネットワークを利用して意思決定をする、あらゆるデバイスに組み込まれる可能性があるのだ。
シェンとハリスは現在、競合する別々のスタートアップを経営している。シェンがCEO(最高経営責任者)を務めるライテリジェンス(Lightelligence)は、2019年に光AI(人工知能)チップのプロトタイプを発表し、これまでに1億ドル以上の資金を調達しているという。
(Konstantin Kakaes)