人体に備わった免疫システムを利用してがんと闘う方法は、いくつかのタイプの腫瘍に対して有望な成果をあげているが、常に効果があるわけではない。「免疫療法がうまくいかない患者が大勢います」と、シェリー・アッカーマン博士は言う。
免疫療法の薬剤が効果を発揮するには、「熱い(Hot)」腫瘍でなければならない。「熱い」腫瘍とは、免疫細胞の一種であるT細胞が存在していることを意味する。免疫療法の薬剤はこれらのT細胞を活性化させ、がんと闘う強力な兵士にする。しかし、多くの腫瘍は「冷たい(Cold)」ため、免疫システムの網の目をかいくぐる。活性化させるべきT細胞がいないので、免疫療法の薬剤はこうした腫瘍には効果がない。
スタンフォード大学の大学院生だったアッカーマンは、医学・病理学のエドガー・エンゲルマン教授の指導のもと、冷たい腫瘍を熱い腫瘍に変える治療法を開発した。この方法は、腫瘍を標的とする抗体を、免疫を活性化させる小粒子薬剤に化学的手法で付着させることで、免疫システムに腫瘍を認識させ攻撃させるというものだ。これにより冷たい腫瘍は熱い腫瘍に変わり、腫瘍を殺すT細胞の攻撃を受けるようになる。エンゲルマン教授はこの手法を商業化するために、2015年にバイオテクノロジー企業であるボルト・バイオセラピューティックス(Bolt Biotherapeutics)を創業し、アッカーマン博士は2018年に同社に加わった。
アッカーマン博士は子どもの頃、転移性のがんが原因で、1年のうちにおじと親友を亡くした。この経験をきっかけにがん治療の研究に進んだ彼女は、いずれ自分たちの手法が患者の治療に使われるようになることを願っている。
2020年にボルト・バイオセラピューティックスは、乳がんや胃がんなどのHER2と呼ばれるタンパク質を発現するがんの患者に対して治験を開始した。4億3800万ドルを調達した同社は、結腸直腸がん、肺がん、膵臓がんの治療薬の開発も進めている。
(Emily Mullin)