数年前、モントリオールのパブでの白熱した議論の後、イアン・グッドフェロー博士はAI(人工知能)における最も興味をそそるアイデアのひとつを思いついた。ゲーム理論を応用することにより、世界がどのように機能しているのかを、AI自身に効率よく教え込める機械学習システムの方法を考案したのだ。この方法を使えば、人間が苦労してラベル付けした訓練用データを用意しなくても、コンピューターをより賢くできる可能性がある。
グッドフェロー博士は、人間の指示なしでニューラル・ネットワークを学習させる方法について研究していた。通常、ネットワークが効率よく学習するためにはラベル付けした訓練用データが必要だ。ラベルの無いデータを使って学習することもできるが、あまりうまくいかないことが多い。グーグル・ブレイン(Google Brain)の研究者であるグッドフェロー博士は、2つのニューラル・ネットワークが協力して動作したらどうだろうと考えた。1つめのネットワークがデータセットについて学習して訓練用データを作成し、もう1つのネットワークに本物か偽物かを判別させる。そうすれば、1つめのネットワークがパラメータを微調整して改善できるかもしれない。
パブから戻った後、グッドフェロー博士は、「競争式生成ネットワーク(GAN:generative adversarial network)」と名付けた最初のプログラムコードを作成した。ニューラルネットワーク同士を競わせるGANのアプローチは、ラベル付けしていないデータによる学習を大幅に改善した。GANはすでに、見事な芸当を見せてくれている。 例えば、収集した写真の特性を習得することにより、ピクセル化された画像の解像度を向上させられる。ほかにも、本物そっくりな模造写真を作ったり、画像に特定の芸術スタイルを適用したりできる。グッドフェロー博士は「GANはAIに、一種の想像力を与えていると考えられます」と語る。
(ウィル・ナイト)