「周りを見ずに、何かをなすのは難しいことです」と話すのは、プリンストン大学のオルガ・ロッサコフスキー助教授だ。ロッサコフスキー助教授は見えているものをよりよく理解できる人工知能(AI)システムの開発に取り組んでいる。
5年前、機械は人、飛行機、イスなどおよそ20種類の物体しか見分けることができなかった。ロッサコフスキー助教授は、アコーディオンからワッフル焼き器まで、200種類の物体をAIが識別する方法を考案した。写真の中の物体を識別するために、クラウドソーシングを使う方法だ。
ロッサコフスキー助教授は、いずれAIが搭載されたロボットやスマート・カメラのおかげで高齢者が出かける必要がなくなったり、路上の人やゴミ箱を確実に検知できる自律型移動手段ができたりすると考えてる。「まだ、その段階には到達していません。大きな理由の1つは、コンピューター・ビジョンのテクノロジーがそのレベルまで進んでいないからです」。
ロッサコフスキー助教授は、男性が大半を占めるAI分野で働く研究者の多様性を推し進めるために、「AI4ALL」というグループを立ち上げた。人種とジェンダーのよりいっそうの多様性を求める一方で、ロッサコフスキー助教授は思考の多様性も求めている。「AI分野はこれまで似たような人たちを取り込んできましたが、長期的に考えると、それは深刻な悪影響を及ぼすと思います」。
もし、ロボット工学が私たちの生活の一部になったり、融合したりするとしたら、さまざまな職業経歴の人たちが開発に携るべきではないか。利用者のニーズを汲み取れるように手助けをするべきではないか——というのがその理由だ。
もっとも、ロッサコフスキー助教授の学歴はどちらかというと型通りだ。スタンフォード大学で数学を専攻するところから始まり、その後、同大学でコンピューター科学の博士号を取得し、博士研究員としてカーネギーメロン大学に移籍する。
「いろいろな人が必要だと思います。たとえば、コーディングはあまり得意ではないかもしれないけれど、生物学の専門知識で貢献できる人。また、心理学者なども必要だと思います。多様な思考は、AIの研究に創造性をもたらし、1つの角度からだけでなく、広い視野で、どんな問題にどうやって取り組めば良いのか考えさせてくれるのです」。
(エリカ・ベラス)