入院患者のうちかなり多くの人々が、来院当初はかかっていなかった感染症に感染してしまう。
その中でも命に関わる危険性が最も高いのが、クロストリジウム・ディフィシルだ。米国疾病予防管理センター(CDC)による2015年の報告によると、病院やその他の医療施設で広まりやすいこの細菌は、米国の入院患者に対して1年間で50万件近くもの感染症を引き起こした。 そのうち、クロストリジウム・ディフィシルの感染が直接の原因とされる死亡件数は1万5000件に上った。
ミシガン大学のジェナ・ウィーンズ助教授(コンピューター科学・工学)は、病院が患者に関してすでに収集済みの膨大なデータをうまく活用すれば、多数の感染症と死亡者の発生を防止できるかもしれないと考えている。
「私たちが収集しているデータの価値を余すところなく引き出すには、機械学習とデータマイニングの手法を用いることが不可欠だと思います」とウィーンズは語る。
ウィーンズはアルゴリズムを使って、病院の電子健康記録(EHR)システムに記録されたデータをくまなく検索する計算モデルを開発した。計算モデルは患者たちの医薬品処方記録、検査結果、処置や手術の記録などのデータを基に、その病院におけるクロストリジウム・ディフィシレの危険因子を割り出す。
「従来の手法では危険因子と思われる少数の変数からとり掛かり、それらの危険因子に基づいたモデルを作成します。ところが、私たちのアプローチは簡単に言うと、手元にある全てのデータを計算モデルに投入するというものです」とウィーンズは語る。計算モデルは、さまざまな種類のデータに容易に適用できる。
この情報を利用して、感染患者の早期治療や院内感染を予防するほか、計算モデルは研究者らが新規抗生物質などの新たな治療法の臨床試験の際にも役立つと、ウィーンズは語る。かつては、クロストリジウム・ディフィシルが引き起こすような院内感染症に関して、このような調査研究を実施することは困難だった。この種の感染症は急激に進行するため、臨床試験に患者を登録する時間の猶予がほとんどないからだ。しかし、ウィーンズが開発したモデルを用いれば、研究者は感染リスクの最も高い患者を特定し、リスクに基づいた治療の提案を検討できる。
医療コストが急激に上昇している昨今、機械学習による新たなアプローチを導入するために病院が追加費用を捻出するのは難しい。しかしウィーンズは 、病院側はデータ・サイエンティストを雇って、ウィーンズのような業務に当たらせる価値を理解することに期待している。
「データを活用しなければ、かえって大きな損失を被ることになると思います」とウィーンズは述べる。「ただでさえ治療を必要として死に瀕している患者たちが、感染症に掛かってしまうのです。こうした事態を防ぐことができるなら、その価値はお金には替えられません」。
(エミリー・マリン)
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