オリオル・ビニャルズ(グーグル・ディープマインド)

Oriol Vinyals オリオル・ビニャルズ(グーグル・ディープマインド)

コンピューターにゲームのやり方を学習させるのは遊びの延長のようで、AIビジネスの根幹を担っている。 by MIT Technology Review Editors2016.08.24

オリオル・ビニャルズは15歳の時、領地を3種族間で争うオンライン・ゲーム『スタークラフト(StarCraft)』に夢中になった。チェスが白・黒・赤の3種類のコマを使うゲームだとしたら、スタークラフトはチェスに似ているだろう。ビニャルズはスペインのトップ・プレーヤーになった。「スタークラフトが私の人生に後々関わってくるとわかっていました。スタークラフトが提示する人工知能(AI)の問題に興味をそそられたのです」とビニャルズはいう。

ビニャルズの予感が現実化したのはそれから10年以上経ってからだった。カリフォルニア大学バークレー校に在学中、ビニャルズはスタークラフトを自動的にプレイするAIボットの開発に関わったのだ。ボットの名前は「オーバーマインド」(ビニャルズがディープマインドに入社したのは2016年1月)で、機械学習の成功を体現するような性能があった。

「グーグルのAIチームのメンバーとして言語翻訳の新手法の開発に関わっていたビニャルズは、あるときひらめいた」

その後グーグルのAIチームのメンバーとして言語翻訳の新手法の開発に関わっていたビニャルズに、あるひらめきがあった。コンピューターが画像を正確に説明できるかどうか調べることにしたのだ。画像をテキストにするのも、言語翻訳の一種だろう。「あの時のことはよく覚えていますよ。ソースコードを一行変えたんです。フランス語を翻訳するのではなく、画像を入力することにしたのです。」という。翌日、ビニャルズは自分のプログラムに写真(賑わった市場に露店が映っており、バナナが散らばっていた)を見せたところ、「人々がマーケットでフルーツを買っている」という文が出力された。「成功でした。プログラムは単純に『人々が道に立っている』と説明するのではなく、もっと高度なレベルで画像を読み取ったのです」とビニャルズは回想する。ビニャルズが開発したテクノロジーは、現在グーグルの画像検索に組み込まれており、検索語を入力するとコンピューター関連する画像を表示する。

ビニャルズのチームが開発したテクノロジーは現在、Gメール内のスマート・リプライ機能(自動予測返信)にも使われており、受信したメールに対して簡単な返信を提案してくれる。今、ロンドンのグーグル・ディープマインドに加わったビニャルズは、原点に戻ったともいえる。ビニャルズは、複雑なゲームをプレイして勝つ方法を、ハードコード化したルールではなく、経験から自ら学ぶコンピューターを開発しているのだ。

(サイモン・パーキン)