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問題
ヒトゲノムを真に理解するためには、個々の細胞どうしにある違いの大きさについて、より深い洞察が必要だ。ひとりの人間の体内にあるあらゆる細胞が、基本的には同じDNAの青写真を持っているのにも関わらず、ゲノム情報が、ある時点で実際にどのように作用する(専門用語では「発現する」)かには非常に大きな違いがある。それが、ある細胞が神経になって記憶に役立ち、別の細胞は人の足の爪の一部になる理由だ。ひとつの器官(たとえば脳)の中でさえ、違った種類の細胞があり、それぞれの細胞の種類の中にも、多様性がある。遺伝子が、異なる細胞の中でどのように発現されるかについて、不十分・不適切な知識がはびこり、遺伝子治療の進歩を大きく妨げている。
解決
エバン・マコスコは、「ドロップセック(Drop-Seq)」というテクノロジーの開発に携わった。ドロップセックにより、研究者は数千個の細胞をひとつひとつ調べ、個々の細胞が遺伝子にどんな指示をしているかを判断できる。こうした一細胞解析は、既存のツールでもできるが、その場合はたいてい、個々の細胞をごく小さなウェル(解析用プレート上のくぼみ)にひとつずつ入れていくなど、骨の折れる、高コストな作業になる。「もし、ひとつのウェルに細胞をふたつ入れてしまったら、もうめちゃくちゃになるんです」とマコスコはいう。
このプロセスにかかる時間を短縮するため、マコスコは、分析したい各細胞を集め、他の細胞から分離し、細胞内で発現している遺伝子を、識別用の印がついた極小のビーズに付着させる方法を編み出した。こうして、個々の細胞に由来する分析対象(遺伝子群)にラベルを付けさえすれば、その遺伝子群を素早く分析できる。細胞ひとつにつき、わずか7セントという低コストで。
マコスコによれば、研究チームは、マウスの脳のほぼ全体にわたる、数十万個の細胞のプロファイリングを終えようとしている。次の分析材料は、人間の脳を作り上げている細胞群だ。860億個の神経細胞に加え、他の種類の細胞も数え切れないほど存在する。マコスコは、私たちの脳内にある細胞が持つ、非常に幅広い多様性を分析することで、統合失調症、自閉症、アルツハイマー病などの疾患で、機能不全を起こしたり、通常の機能を妨げたりしている変異細胞を突き止めたいと考えている。
(マイケル・レイリー)
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