MIT(マサチューセッツ工科大学)の材料科学者であるシッダール・クリシュナンは、死につながることも多い壊滅的な脳の状態から、人々を救うことができる小型センサーを開発した。
米国で生まれる1000人の新生児のうち1~2人が、水頭症(脳脊髄液が脳にたまる症状)を患っている。外傷性脳損傷があった場合など、幼児期以外でも発症する可能性もある。米国の水頭症患者は100万人以上いるが、そのほとんどがシャント(流路)を作り、髄液を脳から胸や腹に流している。水頭症は放置すれば死に至ることもあるが、すばやく処置すれば完全回復も多くの場合可能だ。
シャントが詰まって髄液が流れなくなった場合、髄液は再び脳内にたまってしまう。こうした事故は6年以内におよそ半数のシャントで発生し、大きな問題となっている。
シャントの異常を検出するこれまでの方法にはすべて、さまざまな欠点があった。CTスキャンやMRI、X線検査を繰り返せば患者が浴びる放射線は危険なレベルに達し、費用もかかる。またシャントの性能は間接的にしか測定できないため、信頼性もそれほど高くない。ときには、シャントが正常に機能していることを確かめるためだけに、脳への侵襲的な手術が実施されることもある。そのうえ、シャントの確認は年に数回しか実施されないため、患者やその家族はシャントがきちんと機能しているかどうか常に不安にさらされていた。
放置すれば死に至ることもある水頭症の治療を、クリシュナンの非侵襲センサーは根本的に改善できる。
いずれにせよ、脳からの髄液の流れは断続的なため、抽出検査では必ずしも問題を把握できない。
クリシュナンのセンサーを使うと、シャント内の流れを非侵襲でモニターする方法が提供される。センサーは、弁膜付近の首の皮膚の上に設置する。数カ所で温度を測定し、温度分布から髄液の流れの有無を判断する。測定回数が少なく、氷嚢(ひょうのう)が必要な従来型の非侵襲センサーとは異なり、クリシュナンのセンサーは髄液の流れを連続的に測定し、Bluetooth経由で結果を報告してくれる。
これまでのところ、2020年の学術誌NPJデジタル・メディスン(NPJ Digital Medicine)に掲載された論文で報告された7人の患者の臨床試験では、クリシュナンのセンサーは、数時間にわたって「まったく問題のない、高品質のデータ」が得られたという。
クリシュナンは自分のセンサーが、水頭症以外にも使われることを願っている。想定される用途としては、皮膚下のわずかな変化が重大な影響を及ぼす可能性のある糖尿病などのモニターなどである。
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