KADOKAWA Technology Review
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博愛家
CATHRYN VIRGINIA
35歳未満のイノベーター35人 2020博愛家
病気を治したり、水や住居、義肢を誰もが利用できるように、テクノロジーを活用している。

Katharina Volz カタリーナ・ヴォルツ (33)

所属: オッカムズレーザー

愛する人がパーキンソン病と診断されたことをきっかけに、機械学習を用いてその病の治療法を探究する企業を立ち上げた。

2016年、カタリーナ・ヴォルツは、自分の身近な人がパーキンソン病にかかっているという知らせを受けた。当時、ヴォルツはスタンフォード大学で博士号を取得したばかりで、学術機関で幹細胞を研究する高収入のキャリアが決まっていた。しかし、そのニュースがすべてを変えた。

「自分が、実際に状況を変えられることがわかっていました」とヴォルツは言う。「どうしようもないと感じられることもあります。ですが、実際のところ、私はパーキンソン病の治療法を見つけることに大きな責任を感じました。なぜなら、その病気について私にできることがあるとわかっていたからです」。ヴォルツは現在、機械学習と生物医学的研究を融合させ、パーキンソン病の治療法の探求を推進している企業、オッカムズレーザー(OccamzRazor)を率いている。

ヴォルツは、パーキンソン病を研究するにあたって、ある問題に気づいた。それは、科学全体を蝕んでいるといえる問題だった。この病気を研究している専門家たちは、何かしらの側面に特化しており、一般的に他の側面についてあまり詳しくなく、専門外の側面には関与できていなかった。この研究のタコツボ化により、新たな洞察を適切に共有・探求することが難しくなり、パーキンソン病研究の進展具合を継続的に把握することが困難になっていた。

「パーキンソン病の治療法を見つけることに大きな責任を感じました。なぜなら、その病気について私にできることがあるとわかっていたからです」

「世界中で最も賢い研究者でも、すべての情報を集めて、病気の実態を真に理解するために必要なつながりを見い出すことはできません」とヴォルツは言う。「人間は誰しも、こうした無数のつながりを見い出す能力に限界があります」。

そこで、機械学習の出番となる。ヴォルツは、あるトピックについて発表されている論文やデータセットをすべて読み込み、ブレークスルーにつながる可能性のある洞察を見い出すうえで、人工知能(AI)が人間よりも優れていると気づいた。機械学習は自身の専門分野ではなかったが、ヴォルツはAI研究者や、計算生物学、医薬品開発、神経科学などの専門家に声をかけてチームを結成した。また、グーグルのAI責任者であるジェフ・ディーンや、マイケル・J・フォックス財団など、さまざまな投資家から資金を調達した。オッカムズレーザーはこうして、2016年に立ち上げられた。

同社は、主に2つのステップでこの問題に取り組んでいる。まず、パーキンソン病に関する出版物を読んで理解するプログラムを開発した。現在は、AIを使用して、ゲノミクスとプロテオミクス、臨床データセットを統合しようとしている。目標は、新たな活路とパーキンソン病にとって重要な遺伝子を予測し、実験室で試験できるようにすることだ。

オッカムズレーザーが「パーキンサム(Parkinsome)」と呼んでいる、パーキンソン病に関する知識マップはその成果だ。パーキンサムは、病気の原因と進行の仕方を明らかにし、早期診断に役立つ兆候と症状を示し、潜在的な治療対象者を特定するためのものだ。オッカムズレーザーは、調査結果を検証した後、バイオテクノロジー企業や製薬企業と提携して医薬品を開発する。

目標は、パーキンソン病以外にもこのアプローチを適用することだ。ヴォルツと彼女のチームは、このプラットフォームを拡大して、脳の老化に関連する他の複雑な病気についての包括的な知識マップを構築しようと計画している。「ある病気は、別の病気の情報を与えてくれます」とヴォルツは言う。「パーキンソン病の研究は、脳の老化全般を研究する最良の方法のひとつなのです」。

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