モハメド・ダウアフィは、4年前の大学チャレンジクイズの最中に、チームメイトのいとこが両腕なしで生まれ、義肢を買う余裕もなかったことを知った。当時、工学部の学生だったダウアフィは、社会に影響を与えられるようなプロジェクトを探していた。そして、世界各地の四肢欠損を調べ始めると、満たされていないニーズが大いにあることに気づいた。世界保健機関(WHO)の推定によると、貧困国には手足のない人々が3000万人存在し、義肢を利用できているのはそのうち5%に過ぎない。
子どもたちは成長し続けるため、体型に合った質の良い義肢を与えようとすると、特に費用がかかる。義肢を手に入れられない人々は、偏見や移動の問題によって大半が学校に通えず、生涯失業者になってしまう場合が多い。「四肢の有無だけが問題なのではありません」とダウアフィは言う。「四肢がないことで生じる貧困や、教育や医療にアクセスできないことが問題なのです」。
現在、ダウアフィは、高度な義肢をより身近な存在にできる製品の開発に取り組んでいる。自身が設立した、チュニジアを拠点とするスタートアップ企業、キュア・バイオニクス(Cure Bionics)は、サイズ調整可能なマルチグリップ・バイオニックアーム開発の最終工程を迎えている。同製品は、類似した義肢の価格の数分の1にあたる約2000ドルで販売される予定だ。ダウアフィのチームは、主要部品を3Dプリントし、電子回路の大半を社内で設計することでコストを抑えようと計画している。
しかし、品質を犠牲にしているわけではない。他社が開発するバイオニックアームと同様、キュア・バイオニクスの試作品には、装着者の腕の筋肉を収縮させたり緩めたりして手を操作できるセンサーが取り付けられている。さらに、バイオニックアームが体内の電気信号をより正確に認識できるアルゴリズムを開発することで、調整作業における整形外科医の関与を最小限に抑えられる。
同社は今後、子どもたちの理学療法プロセスをゲーム化する実質現実(VR)ヘッドセットも発表する予定だ。「医者から、リンゴを拾うことを想像してくださいと言われる代わりに、スパイダーマンのようにビルのあいだをジャンプするために手を使うようになるでしょう」とダウアフィは話す。
ダウアフィとスタッフらは、最初の製品の発売に向けて動いている。すでにチュニジアの5人の若者を対象に義手をテストしており、まもなく3カ所の公立病院で試用を始める予定だ。いずれは、アフリカや中東、その他の地域の若者に、複数種類の高品質で手頃な価格の義肢を提供したいと考えている。