ミゲル・モデスティーノ(ニューヨーク大学)

Miguel Modestino ミゲル・モデスティーノ(ニューヨーク大学)

化石燃料の熱を使う代わりに、AIで分析して得られた電気パルスのパターンを使って化学反応を最適化することで、化学産業の二酸化炭素排出量の削減を目指している。 by MIT Technology Review Editors2021.02.02

ミゲル・モデスティーノは、化学産業の電化を実現する上での大きなハードルをクリアした。同産業においては従来から、プラスチックから肥料にいたるまで様々なものに使用される化合物を生産するために化石燃料を燃やして加熱している。これに対し、モデスティーノの人工知能(AI)ベースのシステムは機械学習の手法を用いて、電気パルスで化学物質を叩きつけてさまざまな化学物質を作る反応を最適化する。電気は風力や太陽光などの再生可能なエネルギー源から作れるので、化学プラントを電化できれば地球温暖化ガスの排出量を大幅に削減できる可能性がある。

初期の研究室プロジェクトでモデスティーノのチームは、アジポニトリルの生産率を30%以上向上させることに成功した。アジポニトリルはナイロンの製造に使われるもので、他の多くの工業プロセスにも使用されている。この成果は、過去50年間に示された他のどの方法よりも大きな改善であった。

生産量を最適化するために鍵となったのは、常に周波数が変動する複雑な電流パルスを使用することであった。モデスティーノは、どのようなパターンのパルスを使用するのがよいのか見い出すのに機械学習の手法を使った。異なる電気的条件でアジポニトリルを作る実験をいくつか実施し、その後、AIでデータを分析し、より少ないエネルギー、より豊富な生産量、より少ない廃棄物で化合物を作る方法を発見した。

モデスティーノと2人の元学生は最近、スタートアップ企業であるサンセティクス(Sunthetics)を創業し、水素燃料の生成やポリマーの製造などの他の化学プロセスにAIシステムを利用している。同社はまた、パイロット炉向けのアジポニトリル生産プロセスの規模拡大や、他のプロセスへのアプローチの拡張にも取り組んでいる。