2017年の夏、モーガン・ベラーはフェイスブックの社内開発チームの上司にある提案を持ちかけた。自身の仕事の大半をソーシャル・メディアの大手である同社が電子マネー市場に参入する方法を研究するために費やしたいというのだ。
当時、ベラーはフェイスブックに入社したばかりで、まだオリエンテーションも終えていない状態であった。しかし、ベラーは、初期の暗号通貨投資に携わるベンチャーキャピタルで経験を積んでおり、世界の金融界に大きな変化が起こりつつあることが分かっていた。
フェイスブックでブロックチェーンに取り組んでいる人が誰もいないことに気づいたベラーは、自らこの業務に志願し、すぐに同社の電子マネー関連事業の主要人物となった。そして、オープンソースのブロックチェーンインフラである「リブラ(Libra)」と、通貨アプリ兼デジタルウォレットである「ノビ(Novi)」の両方の開発を指揮する立場となった。現在はノビの戦略責任者として、電子マネー開発者のチームと仕事をしている。
リブラの事業計画を発表した後、フェイスブックと同社の創業者であるマーク・ザッカーバーグは強い批判を受けた。ベラーは世間のこの反応に驚きはしなかった。「私たちはシステムを変えようとしています。しかし、世界の金融システムを変えたくないと考える人たちはたくさんいます」とベラーは言う。
リブラはまだ公開すらされていないが、その存在はすでに中国をはじめとするいくつかの国の電子マネー開発を加速させる要因となっている。リブラ協会(Libra Association)は最近、リブラの規模を縮小し、地域通貨と連動するコインを最初に発行するという計画を発表した。事業の軌道修正はなされたが、それでもなお、リブラはすでに既存の市場を揺るがす大きな存在となっている。