フムサ・ベンカテシュの研究は、「がん」がいかにして神経回路の活動を乗っ取り、自己の成長を促すかについて明らかにした。彼女の発見により、さまざまな種類のがんに見られるある種の活動に着目する新しい研究分野が活性化した。「これらの神経細胞系は、腫瘍の増殖方法や機能の仕方を指示する信号を送っているのです」とベンカテシュは述べる。こうした研究の成果は、多様な腫瘍細胞に対して効き目のある治療法につながる可能性がある。
ベンカテシュがカリフォルニア州に住む10代の少女だった頃、当時インドに住んでいた叔父が腎臓がんを発症したことが判明した。インドと米国の両国で治療しようとしたが、選択肢は標準的な放射線療法と化学療法しかなかった。結局、いずれの療法も効果がなく、がんの診断から2年も経たずに叔父は亡くなった。この経験からベンカテシュは、腫瘍増殖の基本的なメカニズムがほとんど分かっていないことに気付いた。
そこでベンカテシュは、もともと目指していた医師になる代わりに、がんの研究に専念するようになった。「がん患者をただ個人レベルで治療するのではなく、がん研究を実際に推進することで貢献したいと思いました。新しいがん治療法を考案するのに役立つようなことをしたいのです」。
ベンカテシュは現在、腫瘍環境における腫瘍の本質的に寄生的な振る舞いを利用して、腫瘍による神経回路の乗っ取りを無効にする医薬品の開発に取り組んでいる。このような治療薬は、他の治療薬よりも臨床で早く使われる可能性がある。同様の医薬品の試作品がすでに存在するからだ。それらは、がん治療における可能性を科学者たちが見い出す前に、他の目的で開発されたものである。
(イェティン サン)
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クレジット | Photograph by Saahil Mehra |
著者 | MIT Technology Review編集部 [MIT Technology Review Editors] |