マナン・スリは、脳の学習能力とエネルギー効率を模倣したコンピューター・チップの鍵となる要素を作り上げてきた。そのために利用したのが、次世代の記憶テクノロジーが持つ奇妙な特性だ。
このテクノロジーは、新世代の不揮発性メモリー(emerging non-volatile memory、以降「eNVM」)として知られている。eNVMのナノスケールにおける物理的特性には奇妙なところがあり、デバイスはしばしば予測不可能な振る舞いを示す。コンピューターにおいては通常、欠陥だと見なされるような特性だ。しかしスリはこの不規則性が、いわゆる「ニューロモーフィック・チップ」(私たちの脳内にある神経細胞やシナプスを真似たチップ)を開発する上で役に立つかもしれないと気づいた。
トランジスターは情報を1と0として保存するが、脳内で情報を記憶する生体シナプスは2つ以上の状態をとることができる。つまり、脳のように振る舞うコンピューターを開発する上でこれまでずっと、複数の状態をとれるような複雑な人工シナプスが求められていたのだ。
スリはeNVMが持つ固有の変異性を、教師あり学習と教師なし学習を実行する大規模なニューロモーフィック・システムの構築に利用できると気づいた。そして、この不規則な振る舞いを利用して、サイバーセキュリティ技術や先進的なセンシング技術を開発している。2018年に入ってスリは「サイラン・AI・ソリューションズ(Cyran AI Solutions)」というスタートアップ企業を立ち上げた。自身のeNVM研究に基づいて、ニューロモーフィック・ハードウェア、サイバーセキュリティ・ハードウェアを開発する企業である。
(エド・ジェント)
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クレジット | Photograph courtesy of Pardeep |
著者 | MIT Technology Review編集部 [MIT Technology Review Editors] |