3Dプリントで「生きた肺」
臓器の大量製造を目指す
米バイオ企業の夢
人工的な肺を3Dプリントすることで、移植用臓器の不足を解消を目指す企業がある。生体組織を3Dプリントすること自体は目新しいことではないが、肺ほどの大きさの組織を作製するにはいくつものブレークスルーが必要だ。同社は3Dプリントで作った土台に細胞を含侵させることで、生きた肺を作ろうとしている。 by Antonio Regalado2018.07.04
先月、人間の下気道の上部にある気管と2本の主気管支のレプリカを手に持つ機会を得た。人間の体を結びつける生物学的なセメントであるコラーゲンで作られたそれはぬるぬるした手触りで、中空で、生茹でパスタのような硬さだった。
そのレプリカは、ユナイテッド・セラピューティクス(United Therapeutics、以下「ユナイテッド」)のニューハンプシャー州マンチェスターにある出張所で、冷蔵庫のような大きさの3Dプリンターを使って作られたものだ。ユナイテッドは、肺疾患治療薬の販売で年間10億ドルの売上がある会社である。
ユナイテッドは、このようなプリンターを使っていつか、人間の肺を「数限りなく」作製し、深刻なドナー臓器不足を解消したいという。
組織のバイオプリンティング自体は、決して目新しいアイデアではない。3Dプリンターは今や、人間の皮膚や、網膜さえ作製できる。だが、3Dプリンターで作れる組織はこれまで非常に小さいか薄くて、血管のない組織に限られていた。
ユナイテッドが開発を進めている3Dプリンターは、極めて詳細な構造を備えた固形体のゴム状の肺の外形を数年以内に作製できるようになるという。そのゴム状の肺は、23回枝分かれする細気管支、ガス交換をする肺胞、繊細な毛細血管網などで出来ている。
コラーゲンで作られた肺は、何の役にも立たない。ゴム製のにわとりのおもちゃが本物の雌鶏ではないのと同じだ。そこでユナイテッドは、人間の細胞を土台に含侵させる方法の開発にも取り組んでいる。人間の細胞を土台に付着させ、潜り込ませることで、生きた組織にしようというのだ。
「私たちは、細胞が住めるような小さな棒でできた家を作ろうとしているのです」と話すのは、ユナイテッドの臓器作製グループのプロジェクトを率いるデレク・モリスだ。
臓器を作る起業家
この3Dプリンティングのプロジェクトは、ユナイテッドのマーティン・ロスブラットCEO(最高経営責任者)が立ち上げた大胆な技術的取り組みのうち最新のものだ。ロスブラットCEOは、かつては航空宇宙産業の起業家であり、シリウス・サテライト・ラジオ(Sirius Satellite Radio)の創業者兼CEOであった。自分の娘が希少な肺疾患を発症したのをきっかけに、1990年代にキャリアを変えた。
ユナイテッドを創業する際、ロスブラットCEOは製薬会社に見切りをつけられていた医薬品の特許権を2万5000ドルで購入した。その儲けでユナイテッドの規模を拡大し、昨年バイオ医薬品業界で最も稼いだCEOとなった。さらにロスブラットCEOは昨年、電動ヘリコプターの最速記録も更新した。ロスブラットCEOは、いつの日か電動ドローンが、自社の工場から臓器が必要とされるあらゆる場所に素早く届けられるようにしたいと考えている。
ユナイテッドは臓器の分野ですでにいくつかのリスクを伴う賭けに出ている。ユナイテッドの子会社の1つであるリビビコール(Revivicor)は、遺伝子操作したブタの心臓や腎臓、肺を外科医に提供している(これらの臓器は今までのところヒヒにしか使用されていない)。別の子会社であるラング・バイオエンジニアリング(Lung Bioengineering)は、温かい溶液を注入することで人間のドナーから得た肺を修復している。すでに約250人が、ラング・バイオエンジニアリングの技術なければ医療廃棄物として処理されていたであろう肺の移植を受けている。
すべて人工的に作られた臓器が近い将来に実現することは期待できない。ユナイテッドの見通しでは、あと12年は無理だろうという。現在の3Dプリント …
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