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MIT Technology Review’s new design—and new mission

創刊119年目を迎えたMITテクノロジーレビューの新しいミッション

MITテクノロジーレビューはこのほど、新しいミッション・ステートメントを発表した。米国版のギデオン・リッチフィールド編集長がその背景と狙いを解説する。 by Gideon Lichfield2018.07.31

ちょうど20年前、当時は単に『テクノロジーレビュー(Technology Review)』と呼ばれていた雑誌が、新しいデザインと「MITのイノベーション雑誌(MIT’s Magazine of Innovation)」というキャッチフレーズを携え、リニューアルした。 当時はいわゆるドットコム・ブーム(インターネット関連企業の興隆)がピークを迎えつつあり、 『ワイアード(Wired)』や『ファースト・カンパニー(Fast Company)』『レッド・へリング(Red Herring)』といった流行に敏感な新しい雑誌が、テクノロジーに精通する者は、裕福で、セクシーで、長生きで、クールな友人に恵まれるという大胆かつ大げさな未来像を読者に売っていた。一方、当時99歳だった、いささか堅苦しいテクノロジーレビューは、より幅広い読者を迎え入れること、そしてジョン・ベンディット編集長(当時)の言葉を借りるならば「テクノロジーとイノベーションに関して全国的な対話の開始」を決意したのだった。

それ以降も、数多くの新しい出版物が出現し、テクノロジーのもたらす明るい展望を吹聴しようとした。だが、そのような大ぼらは、もろくも崩れ去った。ネット荒らし、フェイクニュース、ソーシャル・メディア・エコー・チェンバー、選挙のハッキング、サイバー犯罪、強大な力を持つテック企業、プライバシーの侵害、仕事の自動化……。おそらく、原子力あるいは農薬の発明以来、テクノロジーがプラスとマイナスの両方の道に進むということはそれほど明確ではなかったのかもしれない。

ジョージア工科大学の故メルビン・クランツバーグ教授(技術史)は、1985年にこの事実を「テクノロジーは善でもなければ悪でもなく、その中間でもない」と総括している。この言葉は、テクノロジーが良い効果と悪い効果を併せ持つこと、そしてその2つの効果はテクノロジーに由来するものではなく、使用方法や使用される場所に依存することを示していた。 一見明白に思えることだが、潜在的な影響を考慮せずに新たなテクノロジーを開発する人々や、それを徹底的に阻止しようとする人々の双方が、日常的に忘れていることのように思える。

しかし、クランツバーグ教授の言葉を真剣に受け止めることは、すなわち、満遍なく明白と考えられる必然的帰結を認めることになる。それは、テクノロジーは争ったり、服従したりしなければならない不可抗力ではなく、人間の行動と意思決定の産物であるということだ。 私たちは良い効果を最大限に、害悪を最小限にする方法で、テクノロジーを開発し、利用することを選択できるのだ。「進歩を止めることはできない!」とはおっしゃる通りだが、人々が進むべき方向は選択できるのだ。

テクノロジーを開発する人々、テクノロジーを利用して影響を被る人々、テクノロジーにまつわる法律・規制・財政の枠組みを作る人々(以下、三者をメーカー、ユーザー、フレーマーという簡略化した表現で記述する)は、残念ながら、しばしば、あまり良くない選択をしてしまう。メーカーは通常、経済的な成功に重きを置き過ぎる。ユーザーは自分たちの生活がゆっくりではあるが、根本的にどう変わっていくのかを理解できない。フレーマーは、自分たちが作る法律や規則、監視の対象である発明についてほとんど理解していない。結果として、3つのグループすべてが大事な情報を得ないまま意思決定をしてしまう。

こうしたことを背景に、MITテクノロジーレビューは、新しいデザインの紙版とともに、「信頼性が高く、影響力があり、信用に値するジャーナリズムを通じ、人々がテクノロジーに関して良質の情報と自覚をもった上で意思決定ができるようにする」という新たなミッション・ステートメントを発表した。私たちは、テクノロジー雑誌は単にテクノロジーを解説し、その効果を説明するだけではもはや不十分だと考えている。むしろ明らかに、メーカーやユーザー、フレーマーがより良い意思決定ができるように支援することによって、テクノロジーを良き未来を生み出す大きな力と変えるよう努力していくべきなのだ。

技術倫理や政策についての記事を増やすなど、さまざまな方法で新たなミッションを実行していくつもりだ。しかし、同時に、紙の雑誌が何のために存在するのかについては、見解を変えつつある。

長年、Webは単に印刷済みの雑誌や新聞の記事を再掲載するための場所だった。デジタル・ファースト時代となった今日では立場が逆転し、概して、印刷版が、オンラインに掲載されていた記事の選りすぐり(インタラクティブな部分は削除)を掲載した「ベスト版」になっている。しかし、私たちのアプローチでは、人々は紙メディアとデジタル・メディアを使い分けており、両メディアはそれぞれ、異なる目的に沿うものでなければならないと捉えている。

オンライン版では、短いニュース項目から、これまで本誌が頻繁に掲載してきたような詳細な記事にいたるまで、今後も幅広く、エマージング・テクノロジーを取り上げていく。一方、紙版は、1つのテクノロジーあるいはテーマを幅広い角度から調査し、世界にどのような影響を及ぼし、また、それに対してどのように意思決定がされたのかについて、より深く理解できるように、毎回、以前よりも書籍に近い形で発行する。7月/8月号は経済全般について取り上げ、人工知能(AI)やビッグ・データ、強大なテック企業が融合することで、将来、人はどのように働き、どのように繁栄するのかを特集する。

オンライン版とは別に、紙版をテーマに沿った特集形式に移行することについて、複数の読者から不満の声を聞いている。だが、今回のリニューアルは、テクノロジーが勝者になれた幸運な人々だけでなく、多くの人々の生活を改善するものであることをいかに担保していくかが、世界的に極めて重要な話になりつつある中で、私たちが大きな役割を果たすのに役立つはずだと確信している。


日本版編集部より:日本版は米国版の新しいミッション・ステートメントを共有します。なお、日本版では紙版の雑誌を発行しておりません。従来どおり、テーマ別に再編集したPDF「eムック」を提供します。

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ギデオン・リッチフィールド [Gideon Lichfield]米国版 編集長
MITテクノロジーレビュー[米国版]編集長。科学とテクノロジーは私の初恋の相手であり、ジャーナリストとしての最初の担当分野でもありましたが、ここ20年近くは他の分野に携わってきました。まずエコノミスト誌でラテンアメリカ、旧ソ連、イスラエル・パレスチナ関係を担当し、その後ニューヨークでデジタルメディアを扱い、21世紀のビジネスニュースを取り上げるWebメディア「クオーツ(Quartz)」の立ち上げにも携わりました。世界の機能不全を目の当たりにしてきて、より良い世の中を作るためにどのようにテクノロジーを利用できるか、また時にそれがなぜ悪い結果を招いてしまうのかについても常に興味を持っています。私の使命は、MITテクノロジーレビューが、エマージングテクノロジーやその影響、またそうした影響を生み出す人間の選択を模索するための、主導的な声になることです。
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