KADOKAWA Technology Review
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気候変動対策には
新テクノロジー開発より
「説得の技術」が必要だ
Nico Ortega
カバーストーリー Insider Online限定
How the science of persuasion could change the politics of climate change

気候変動対策には
新テクノロジー開発より
「説得の技術」が必要だ

米国における気候変動の問題は、すでに科学から乖離して政治的対立となっている。懐疑論を打ち破り、有効な政策に結び付けるには、「説得の技術」が鍵になるかもしれない。 by James Temple2018.05.21

ジェリー・テイラーは、自分なら保守的な気候変動懐疑論者の考えを変えられると思っている。何しろテイラー自身が多くの人に懐疑論を吹き込んできたのだから。

テイラーはかつて、気候変動を否定する研究者であった。ワシントンD.C.に本拠を置くシンクタンク、ケイトー研究所(Cato Institute)で何年にもわたって、気候変動に関する研究、規制、国際条約などに反対する説を、新聞の論説コラムや講演、マスメディアへの登場で述べ続けてきた。しかし、テイラーの考えは世紀の変わり目あたりからゆっくりと変わり始めた。地球温暖化のリスクが非常に長い期間にわたって存続することを議論した経済学者や法学者たちの論争に影響を受けたのだ。

現在テイラーは、自身が2014年に設立したワシントンD.C.の自由主義的シンクタンクであるニスカネン・センター(Niskanen Center)の社長を務める。テイラー社長と同僚たちは、政府の人間たちとの議論を通じて、大々的な炭素税を連邦議会に通すための支援を、特に共和党議員とその支持者から得ようと努力している。

小さいが成長中の財政的保守主義者および企業利益の代表団が、同様の政策について論議している。代表団には元国務長官ジョージ・シュルツなどの政党の長老たちや、エクソンモービルなどのエネルギー業界の巨大企業、そして20ほどの大学の共和党グループが入っている。テイラー社長らは、このような(保守層にとっても正当だと思える政策に焦点を置いた、政治的エリートとの)対話こそが、最終的には気候変動を抑える実際の行動に結びつくものと考えている。

現在、多くの研究や公開討論で焦点となっているのは、クリーン・エネルギー源の適切な組み合わせ方や、今よりも安くて優れたテクノロジーの開発である。だが、地球温暖化対策に必要な本当のブレークスルーは、「説得の技術」にあるのかもしれない。現在、非常に多くの政治的リーダーが、人為的な理由で気候変動が起こっていることすら頑なに否定している。こうした風潮を改めない限りは、現時点でまだ完璧に動作している化石燃料プラントを廃棄し、排出ガスを劇的に減らせるクリーン・エネルギーを今後数十年間で不足なく生成するようになる状況は決して望めないだろう。

ある学術文献に、そのような政治的感情の変化をどうすれば起こせるかについての考察があった。ニスカネン・センターや他のグループが採用しているアプローチとほぼ一致している。

1. 正しい目標を設定する

政治研究者がいつも目に当たりするのは、公衆の意見は政策論争を方向転換させるほどの力はないことだ。党員の分裂はまず「エリート層」(影響力のある主張者グループ、知名度の高いコメンテーター、政治家)の間で起こる、と言うのはデューク大学のミーガン・マリン准教授(環境政治学)だ。

エリートは次々と、論争における言い回しを公衆の心に植え付けて党の考えを拡散している。マスメディアへの露出、社説、ソーシャルメディアのフォーラムなどで使われる、効果が実証済みの洗練されたキャッチフレーズなどがそうだ。

ほとんど人は、まず自分自身の経験や人口動態(人種/年齢/収入/教育レベルなど)、ソーシャル・ネットワークの情報などに基づいて、魅力を感じるグループ(政党であることが多い)と手を結ぶ。そして、複雑な政策や技術の詳細な評価については、自分が選択した集団のリーダーを信頼する。ただし、自分の信念に反する議論には断固反対する(そうした議論は、実質的に自らのアイデンティティが攻撃されることになるからだ)。

実際、政治的な傾向は、その人の「気候変動に関する認識と態度」を決定づける、飛び抜けて影響力の強い要素である、と『政治学年報(Annual Review of Political Science)』の2017年分析で、マリン准教授とニューヨーク大学のパトリック・イーガン准教授(政治学)は注記している。

いろいろな意味で、気候変動に関する論争は文化戦争の陥穽に陥っており、これまで30年も米国の政治を疲弊させてきた(日本版注:米国における …

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