KADOKAWA Technology Review
×
船舶燃料の2020年規制で
新たな温暖化のリスクが浮上
NASA
カバーストーリー Insider Online限定
We’re about to kill a massive, accidental experiment in reducing global warming

船舶燃料の2020年規制で
新たな温暖化のリスクが浮上

国際海事機関が2020年までに対応を求めている船舶燃料に対する環境規制が、温暖化対策にはむしろマイナスに働くかもしれない。船舶が排出する硫黄が、意図しない地球工学の実験だった可能性があるからだ。 by James Temple2018.02.14

船舶は年間何十億トンもの二酸化炭素を吐き出しているにも関わらず、実は地球を冷却する影響を与えていることが研究によってわかっている。その主な理由は、船舶が二酸化炭素以外に硫黄を排出するからだ。硫黄は大気中で太陽光を散乱させ、さらに雲を作ったり厚くしたりして太陽光を反射させている。

海運産業は意図していたわけではないが、事実上、1世紀以上にわたって気候工学の実験を実施してきたことになる。他の調査をまとめた2009年の研究によって計算された平均「強制効果」に基づくと、世界の平均気温は0.25℃低くなった可能性がある(「気候変動の最終手段 「地球工学」の使用を 誰が決断するのか?」参照)。気温上昇を2℃以内に抑えようと奮闘している世界にとって、大きな救いの手だ。

だが、われわれはこの実験に終止符を打とうとしている。

国連の国際海事機関(IMO)は2016年の発表で、国際海運船は2020年までに硫黄汚染を大幅に削減しなければならないと定めた。具体的には、船舶の所有者は硫黄含有量が現在の3.5%から0.5%以下の燃料に切り替えるか、同等の削減効果を持つ排気浄化システムを装備しなければならないと、シェル(Shell)が顧客に向けたパンフレットには記載されている。

硫黄の削減にはもっともな理由がある。硫黄はオゾン層破壊と酸性雨の一因となり、呼吸器疾患を引き起こしたり悪化させたりする可能性がある。

だが、「環境科学とテクノロジー」誌の2009年の論文が指摘するように、硫黄排出量を制限することは、もろ刃の剣だ。「これらの削減を行えば、海運は現状に比べて『二酸化炭素によるもの』と『二酸化硫黄の削減によるもの』の二重の温暖化効果をもたらすことになる。したがって、数十年後に海運が気候に与える影響は、実質的に冷却から温暖化に変わるだろう」と著者らは記した。

石炭の燃焼による硫黄汚染にも同じような効果がある。本来、石炭は燃焼 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る