倫理規程
注意:この規程のオリジナル版は随時更新されており、米国版サイトで閲覧できます。
1. MIT Technology Reviewが目指すこと
MIT Technology Reviewは、読者の皆さまに、テクノロジーが形作る世界を理解するための知識を獲得していただくためにあります。
MIT Technology Reviewの記事のテーマや切り口は、何が一番読者のためになるかを主な基準に判断しています。基本理念を達成するための最優先事項は、正確さと編集業務の独立です。MIT Technology Reviewは正しい情報の提供に全力を注ぎます。また、取材活動はいかなる取引関係(所有権を持つマサチューセッツ工科大学(MIT)、広告主との合意事項等を含む)からも独立しています。
MIT Technology Reviewは基本理念を実践し、最高の記事を制作し、発表するために努力します。考えが行き届き、信頼がおけ、教養があり、伝聞によらず当事者に直接取材するジャーナリズムを追求し、電子版でも紙版でも、ひとつひとつの記事を美しくデザインし、役立つ情報を公開します。また、MIT Technology Reviewが開催するイベントは、会場や動画で、今起きていることを取材活動で扱っているとわかるような、示唆に富むものにしたいと考えています。こうした活動を通じて、新しいことに挑戦し、ビジネスとして持続し、デジタル指向なグローバルメディア企業の実例を世界に示します。
2. 価値とテクノロジー重視の姿勢
MIT Technology Reviewは、記者と編集者、デザイナーと開発者、イベント運営者とプロデューサー、広告営業と間接部門の社員、フリーランスと講演登壇者など、多様な人々からなるコミュニティです。さらにMIT Technology Reviewには、専任スタッフを擁し、独自の記事を編集するいくつかの各国版があります(後述7参照)。全体的には、毎月世界中の何百万という人がMIT Technology Reviewのメディアやイベントを読んだり、見たり、協力したりしているのです。
記者や編集者は、声を揃えて発言することはありませんが、もちろんいくつかの価値観を共有しています。
MIT Technology Reviewは新しいテクノロジーを手放しには賛同しません。テクノロジーがもたらす革新には敗者と勝者がいることを認識しつつ、しかし、テクノロジーは社会をよくする強い力があると考えたいのです。MIT Technology Reviewは、どんなに大きく難しい問題でも、テクノロジーは少なくとも解決策の一部であり、新しいテクノロジーは繁栄をもたらし、人類の可能性を広げると確信しています。
3. 取材活動
MIT Technology Reviewはジャーナリズムが培ってきた伝統的な手法を遵守します。基本原則は読者への責任に基づいており、正確さ、公平性と独立した編集業務に基づいて記事を制作します。特に、米国雑誌編集者協会(ASME)が定める電子版と紙版に共通するガイドラインを遵守するものとします。
a.取材先 従来からのジャーナリズムの標準的な手法のとおり、記事中では、取材先の所属と氏名、資料等の出典を明らかにします。通常の取材活動では、新しいテクノロジーの開発者や経済的責任者や支援者、あるいはその理解者から直接話を聞きます。こうすることで、正確でテクノロジーを適切に位置付けた記事を読者に提供します。
ほとんどの場合、取材先の所属や肩書きは明示され、何の立場を代表して発言しているのかわかるようにします。ただし、ごく希に、取材先の安全を確保するといった正当な理由がある場合のみ、取材先を匿名とすることがあります。極めて特殊な例外を除き、記者は匿名の取材先の身元を担当編集者に伝えることになっています。取材先が匿名の理由は、読者に明示します。
匿名の取材先の発言を含む記事は、匿名の取材先に対して「名前を明かさないこと」を条件に話を聞いたものです。記者または編集者が取材先に「オフレコで」と告げて話を聞いたとき、発言内容が記事になることは、発言者を匿名とする場合も含めてありません。取材前にMIT Technology Reviewの記者または編集者であると名乗り、いかなる状況でも、取材のために身分を偽ることはありません。
b.記事の正確さとバランス MIT Technology Reviewの全ての編集者と記者の責任は、正確かつ率直であることです。MIT Technology Reviewの責任は記事のテーマを読者が理解できるようにすることであり、自らの専門的経験、積み重ねてきた判断、知識に基づいて記事を作ります。議論全体をあらゆる角度から平等に取りあげることはありません。論争のあるテーマでは両者の主張を公平に扱いますが、だからといってMIT Technology Reviewの倫理上の義務は、どちらかの利害関係者や党派を満足させることにはなく、真実をつかんでいるのならその証人になることであり、真実が判然としないなら論争となっている事柄を描写することです。
c.事実確認と編集 MIT Technology Reviewの特集、レビュー、インフォグラフィックス記事は、雑誌報道と同様の、徹底した事実確認と何段階かの編集業務を経て制作されます。また、会社案内、図表、グラフ、データを含む要素も、徹底的に事実を確認します。ニュース、時事評論、オピニオンや短信記事は、速報性が求められる報道と同様の、簡略化された事実確認と編集を経て制作されます。イベントの場合、事実確認は事実上できないため、信頼のできる、責任ある登壇者だけを講演に招きます。講演内容に間違いがあった場合は、記録を訂正します。
d.ソーシャルメディア MIT Technology Reviewの編集者と記者は、読者とのコミュニケーション手段として、ソーシャルメディアを使って記事のコメント欄で読者に直接答えるようにしています。ただし、ソーシャルメディアでも、執筆や編集と同様の、公平さ、誠実さ、正確性が求められます。ソーシャルネットワークでの全ての投稿は、基本的に私的な発言ではなく、記者と編集者は職業上の信用を損なうべきではありません。
4. 誠実さ
編集業務の独立を保つため、MIT Technology Reviewは職業上の行為に厳密なルールを適用しています。
a.金品の授受 従業員は、企業からの試供品、カンファレンスや展示会で配られる景品を含む、いかなる種類の金品も受け取りません。
評価記事のために電子機器の貸し出しを依頼することがありますが、記事が完成した後、製品はただちに返却します。書籍、著作物等を記録した記録媒体、ダウンロードして再生する音楽、ソフトウェアは、プレスリリースのように扱います。つまり、レビュー記事の担当者が保持し、第三者に無償で譲渡することはあっても、個人的な利益のために売却することはありません。製品レビューは率直に述べられた製品の感想であり、試供品を提供する企業の意向には影響を与えないものとします。
記者や編集者は一般公開されていないカンファレンスに招待されることがあり、場合によっては、報道関係者の特権として、参加費が免除されたり割引されたりすることがあります。読者に役立つことがあると考えれば、割引を受けてこうしたイベントを取材します。
b.償還 記者または編集者、フリーランスは、出張旅費等の諸経費を取材先企業に負担させることはありません。広報代理店や地域開発機関も同様とします。もし記者または編集者、フリーランスが個人や会社所有の航空機を使ったり、他の移動手段の提供を受けたり、同様の出張旅費を受領したりした場合は、その負担者に費用を返却します。ただし、編集部に属さない従業員は、ライセンスパートナーの費用負担または広告主のプロジェクトの一環で出張することがあります。
c.フリーランス 編集業務の独立を妨げないために、従業員によるあらゆる請負業務(取材先企業へのコンサルティング業務の提供を含む)は禁じられています。講演への報酬は受け取れますが、しばしば取材先となる企業のために、報酬を得て講演することはできません。編集部はフリーランス記者に対して経済的利害を明らかにするよう求めており、取材対象の企業と関係があると知りながら記者を雇うことはありません。
d.経済活動 MIT Technology Reviewの記者や編集者、フリーランスは、取材先企業の株式や債権等を直接所有したり、または(結果として所有しなくても)株式等の売買を繰り返したりできません。ただし、取材先企業に投資している投資信託会社経由であれば株式を所有できます。もし、記者、編集者、フリーランスの配偶者やパートナーが取材先企業の一定数の株式を所有する場合、透明性のある方法で投資内容を公表します。なお、この規程は編集部に属さない従業員には適用されません。
5. リスト
MIT Technology Reviewは、その年の最も革新的な新しいテクノロジーを紹介する「10 Breakthrough Technologies」(前身はTR10)、35人の35歳以下のイノベーターを選出する「Innovators Under 35」(前身はTR35)、世界中で最も革新的な50の企業を決定する「50 Smartest Companies」(前身はTR50)という3つの年刊リストを発表しています。
a.10 Breakthrough Technologies MIT Technology Reviewの編集者が候補者を選出し、場合によっては専門家に相談して、最終的には、編集長、上級編集者、副編集長が選考します。
b.Innovators Under 35 MIT Technology Reviewの読者と編集者が候補者を選出します。編集部推薦でも読者推薦でも、全ての候補者は同じ基準で評価されます。候補者はそれぞれのイノベーションの独創性と、技術分野の発展や社会全体に与えた影響によって評価されます。最終選考候補者には、推薦状とその他の証明となる資料の提出が求められます。選考資料は、研究やビジネスの経歴のある専門家の審査員に送られます。審査員は候補者の長所に関してフィードバックをしますが、最終的には上級編集者(編集長、編集者、編集主幹を含む)が選考します。
c.50 Smartest Companies MIT Technology Reviewの編集者が候補者を選出します。編集者は掲載希望の企業を訪問したり、説明を受けたりしますが、選考はMIT Technology Reviewの正直な企業に対する意見に基づき、掲載希望の有無は選考に影響しません。最終的には上級編集者(編集長、編集者、編集主幹を含む)が選考します。
グローバル版、各国版にかかわらず、テクノロジー、イノベーター、企業はその長所のみで選考され、推薦枠はありません。選考は、広告主を含むいかなる取引先とも無関係です。
これらはテクノロジー、人物、企業に関するグローバル版リストです。MIT Technology Reviewの外国版は地域別に独自の「ヤング・イノベーターズ」のリストを維持しています。(後述7bで説明)
6. 広告
MIT Technology Reviewは出版業界の伝統的な慣行である「政教分離の原則」(編集と広告の分離)に従います。デジタル広告の導入にあたって、MIT Technology Reviewはインタラクティブ広告協議会(IAB)の基準とガイドラインに沿っています。紙版の広告は、ASMEや米国雑誌出版社(MPA)の定めるガイドラインに沿います。イベントでは、主催者の独自企画かスポンサー企画かを区別するよう注意を払っています(以下6b参照)。
*日本版では、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)のガイドラインに準拠しつつ、グローバル版への配信を考慮して、IABやASMEの基準にも従います。
a.干渉 広告営業と事業開発担当者は、取材活動に干渉せず、広告出稿によって取材先となり得ると、営業先の広告主や広告代理店に働きかけることはありません。ビジネスとして、特定の号や記事の幅広いトピックが、広告主や広告代理店にとって魅力的かどうかは考慮します。編集長や編集者、編集主幹、上級編集者は、営業先の広告主と話したり、面談したりする場合はあっても、MIT Technology Reviewの基本理念についてよりよく説明するのみであり、いかなる場面でも、取引関係が編集業務に影響を与えられると認識されないよう務めます。
b.透明性 MIT Technology Reviewの懸念は、雑誌やWebサイトで編集制作物と広告が混同されることです。両者の区別が曖昧な場合、たとえば何らの提供を受け、あるいは何らかの形でMIT Technology Reviewのメディアが購入されているときは広告であると表記することで、編集部が推奨していると誤解を与えないように、その制作物を位置づけます。イベントの場合、スポンサーによる展示や講演は、場所や時間枠を購入していることを司会者が明確に述べます。
*c.ネイティブアド MIT Technology Reviewでは、提供元のある記事を編集制作物と同じ表示枠(米国版または各国版の雑誌、Webサイトのトップ、カテゴリー、記事一覧ページ、電子メール版ニュースレター)に掲載することがあります。
広告主提供の記事は必ず広告であることが明示され、常に提供元が分かるようにします。この場合、広告の制作にMIT Technology Review編集部員が関わることはなく、広告主がMIT Technology Reviewの広告チームに制作を依頼するか、広告主自身が制作します。テーマの選択や広告の文章、写真、図表等の基本理念との整合性は編集長による承認を必要とし、編集長は、広告主提供の記事内容が読者に有益な情報でない場合や、新しいテクノロジーが社会に与えるインパクトの議論でMIT Technology Reviewの基本理念と一致していない場合に、不適切とみなして掲載を拒否します。ただし、掲載の承認は、広告主提供の記事がMITやMIT Technology Review編集部の見解を反映していることを意味せず、広告の掲載は、広告主の製品やサービスをMITやMIT Technology Review編集部が推奨していると理解されるべきではありません。
提供元は、何について記事を書くかを含めて、編集部の判断に一切干渉しないものとします。編集部による記事の内容は、いかなる広告主に対しても、記事に許される範囲で、よくも書けば悪く書くこともあります。
(上記は米国版のネイティブアド規程を元に、日本の出版業界の慣行を反映させた追加項目です。)
7. 各国版
MIT Technology Reviewが編集とブランドを許諾している独立系出版社は、*日本、中国、インド、ドイツ、イタリア、スペイン、ラテンアメリカなど、世界中のさまざまな地域に及びます。もちろん報道慣習と出版業界の慣行は各地域で様々とはいえ、米国版編集部は、各出版社とともに仕事をし、倫理規程と諸基準を共有しています。
a.出版 MIT Technology Reviewの各国版には、それぞれ独自の電子版と、すべてではありませんが、独自の印刷刊行物があります。各社は米国版の編集制作物を許される範囲内でローカライズしつつ各地域の言語に翻訳し、地域独自の新しい記事も制作しています。MIT Technology Review米国版は各国版の編集に直接関わりませんが、記事を確認し、契約条件に違反した出版社とは契約を解除します。
b.リストとイベント 各国版には地域独自に審査された「Innovators Under 35」があります(前述5参照)。各出版社はMIT Technology Review米国版と同じ選考プロセスでリストを選考しますが、MIT Technology Reviewの編集者には最終的な拒否権があります。選考は、広告主を含むいかなる取引関係からも独立しています。これらの地域の若きイノベーターは、グローバルイノベータズーアンダー35に推薦されることがあります。また、中国、インド、スペインの出版社はMIT Technology Reviewが所有するブランドを使って、独自のイベントを展開しています。
8. MITとの関係
MIT Technology Reviewは米国内国歳入法第501条(c)(3)に規定されている非営利メディア企業であり、MITが完全に所有していますが、編集業務は独立しています。議長を含む、役員会メンバーにはMITの理事を兼ねる者がいます。役員会は財務と企業統治を担い、また最高責任者と幹部に戦略的助言を与えます。役員の一覧はこちらにあります。
MIT Technology Reviewは、MITの他の部門や研究所、センターと同じく、最高の仕事を生み出す誠実さと責任によって運営されています。MIT Technology Reviewは、世界に誇る学部や研究者への容易なアクセスを含む、大学機関の多くの資産の恩恵を享受しています。一方で、MIT Technology Reviewのテクノロジーに関する報道はMITから独立しています。単に大学と関わりがあるという理由で、特定の人物やテクノロジーを有利に扱うことはありません。MIT Technology ReviewにMITの広報機能はなく、大学の活動を宣伝することはMIT Technology Reviewの仕事ではありません。
ただし、MIT Technology Reviewと補完関係にある「MITニュース」はこの規程の例外です。MITニュースは同窓会が資金を提供し、大学の全ての卒業生や、ほとんどの在学生と学部に配布されます。MITニュースのいくつかの記事は大学のニュース編集部の記者が執筆しており、編集はMIT Technology Reviewの従業員が担当しています。
この規程は、MIT Technology Review米国版のガイドラインを元に、日本版独自の基準を追加したものです(前述7参照)。日本版の変更点は*で示しています。
This is a localized version of the “Ethics Statement“, dated November 14, 2016.
2016年1月13日「倫理規程」として日本語化
2016年6月1日策定
2016年12月28日改訂(米国版改訂箇所を変更)