再生可能エネの超新星「蒸発駆動エンジン」とは何か
コロンビア大学の研究チームが、水の自然蒸発作用を利用して発電することで、米国のエネルギー需要の膨大な量を賄える可能性があると発表した。研究チームの准教授は、まだ思考実験の域を出ていないが研究室レベルからさらに前進させる意義のある研究だと語っている。 by James Temple2017.10.02
水の自然蒸発作用を利用して再生可能エネルギーを生み出すテクノロジーは、米国のエネルギー需要のうちの莫大な量を生産できるかもしれない。少なくとも理論上はそうだ(「Scientists Capture the Energy of Evaporation to Drive Tiny Engines」を参照)。
「蒸発駆動エンジン」のプロトタイプは、細菌の芽胞が空気中の湿気を吸収したり放出したりする際に、膨張したり収縮したりする動きを利用して電力を生成する。ネイチャー・コミュニケーションズ誌に2017年9月26日に掲載された研究によると、この動きから効率よく低コストで電力を生成する装置を作れれば、325ギガワット以上の発電量を提供できるという。米国における石炭の発電量を上回る値だ。
もっとも、そのためには、五大湖を除く、米国48州にある面積0.1平方キロメートル以上のすべての湖や貯水池の水面を、装置でびっしりと覆ってしまう必要がある。そんなことをしたら明らかに、既存の経済や娯楽と直接的な利害衝突が起こり、美観と環境に対する深刻な懸念が大量に湧き上がるだろう。とりわけ、十分に大きな湖の全域において十分に大きなスケールで水の蒸発を妨げると、現地の天候を変えてしまう可能性さえある。
しかし、蒸発駆動エンジンの研究の共著者であるオズグル・サヒン准教授は、この論文は堅苦しい開発提案をする類のものではないという。蒸発駆動エンジンのテクノロジーには潜在的な可能性があり、研究室規模を超えたところにまで前進させるだけの重要性があることを主張するために立案した思考実験だと語る。
コロンビア大学で生物化学と物理学を研究するサヒン准教授は、クリーンエネルギーと気候変動に関する目標達成において、同テクノロジーは重要な貢献ができると考えている。たとえそれが、論文で主張しているような可能性の規模で繰り広げられなかったにしてもだ。
初期の適用例として、すでに水力発電で電力を生産していて、他の用途を妨害する可能性が低い遠隔地の貯水池が考えられるとサヒン准教授はいう。水面からの蒸発で失われる水の量が減れば、エネルギー生産や灌漑といった他の用途に使える水の量が増えるという付随的な効果も生み出せるかもしれない。
サヒン准教授とコロンビア大学の同僚は、このテクノロジーを何年も研究してきた。2015年の論文では、シャッター機構に取り付けた何枚ものフィルムにこびりついたバチルス・サブティリス(枯草菌)の芽胞を利用する蒸発エンジンについて述べた。この装置を水の上に設置すると、芽胞が自然蒸発した湿気を吸い込んで膨張するので、その動きによってシャッターを開いて湿気を放出する。湿気を放出すると芽胞が乾いて収縮するので、今度はその動きでシャッターを閉じて、空気中に湿気を流入する。こうした動作を繰り返すシャッターを発電機につなげると、継続的な振動が微量の電力を生み出す仕組みだ。
MITテクノロジーレビューが以前掲載したように、「8センチ四方の水面は平均で2マイクロワットの電力を生産できる(1マイクロワットは1ワットの100万分の1)。これは60マイクロワットにまで押し上げることが可能だ」。
研究チームは、このテクノロジーの効率とスケーラビリティを改善するために研究を続けており、芽胞をこびりつかせる様々な材料や方法を探究してきた。主に生物的な材料をベースにしているため、最終的なコストは太陽光電池や特別に製造した材料を使う他のテクノロジーよりも安価になる可能性があると、サヒン准教授は考えている。
特筆すべきは、バチルス・サブティリスの芽胞は休眠していても、死んでいてもさえ、発電に必要な機械的な動きを続けることだ。
このテクノロジーは、風力発電や太陽光発電において見られる発電の断続性という制約を大きく回避できる。というのは、蒸発率が変わることはあっても、蒸発が止まることはないからだ。加えて、装置を設置すると蒸発率が下がるので、水面温度の引き上げにもつながる。新しい研究におけるモデリングでは、蒸発率を計画的に変えることで、発電と需要のバランスをとる熱水電池の一種のようなものを作れることを示した。水の熱が蒸発を増加させ、発電量を一気に押し上げるのだ。
「暖かく乾燥した地域では、時間単位の電力需要の98%を満たせるでしょう」と、サヒン准教授は話す。「(太陽光発電や風力発電のように)電力供給が断続的になるのを防ぐための蓄電設備を用意しなくても済むのです」。
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