スキル・ギャップ神話で
労働問題は解決しない
米国では労働者のスキルが企業が求めるレベルに達していない「スキル・ギャップ」が労働市場における問題だと指摘する人は多い。イリノイ大学のアンドリュー・ウィーバー准教授はそうした先入観を持たずに議論することが必要だと訴える。 by Andrew Weaver2017.09.08
アメリカの労働者は雇用者が求めるスキルを持っていないという主張は、保守的な減税論者から職業訓練の自由主義者にいたるまで、アナリストや政治家、あらゆる種類の評論家にとって揺るぎない信条となっている。中でも、もっとも大きな声でこうした社会通念を唱えているのが、テクノロジー信奉者や起業家たちだ(“The Hunt for Qualified Workers”参照)。
失業率が5パーセント以下になり、自動化が進んでスキル不足の労働者が永遠に失業したままになる恐れが増えたことで、「スキル不足」をめぐる論議はここのところ注目を浴びている。
「労働者のスキル不足」を支持する人は、直感的で分かりやすい次のような話をする。情報技術の進歩によって企業は混乱に陥り、技術スキルへの需要が高まり、逆に技術のない労働者は置き去りにされる。労働者への要求は高く、一方で労働者が持つスキルは低いというミスマッチのせいで失業率は上がり、経済成長は下がる——というものだ。
問題は、データを詳しく見た場合に、こうした考えが事実ではないことだ。さらに、労働者のスキル不足を前提に経済問題を語ることで、生産的な議論ができず、いつまでも非生産的な心配をしたり、労働市場の供給側(つまり労働者)だけに偏狭な目を向けたりすることになる。
しかも、多くの研究が話題に触れているにもかかわらず、もっとも重要な関心事であるスキルレベルを直接計った研究ははない。私は米国人の典型的なスキルを調べるために、製造業の現場労働者、コンピュータ関連のヘルプデスク技能者、検査機関の技師といった職業の労働者を対象に、一連の調査を実施した。調査では特に、自社の人材採用と業務の両方の知識を持つ管理職を対象に選んだ。質問の基本的な内容は、雇用者はどんなスキルを労働者に求めるか、そして高いスキル・レベルを求めた場合に人材採用が実際に難しくなるかどうか、である。
調査を終えると、驚くべき結果がいくつも出た。まず、採用時の恒常的な問題は、評論家や業界の代表者らが言うほど一般的ではなかった。数年前、MITスローン経営大学院のポール・オスターマン教授と私は、工場労働者が3カ月以上欠員していた製造工場は全体の4分の1以下だということを発見した。対照的に、業界側の主張は、同時期に製造工場の4分の3またはそれ以上が、スキルを有する労働者を採用できない状態が続いている、というものだった。
最近になって私は、IT企業および臨床検査機関において雇用問題の兆候を得ようとした。労働市場がひっ迫している中、学歴要求が高いこれらの職種で、新入社員を採用するのは難しいと考えるかもしれない。だが、実際はそうではない。ITヘルプ企業のうち、技能者が長期間補充できないのは15パーセントに過ぎない。一方で臨床検査機関の技師の場合は人材補充が比較的難しいとの調査結果が出たものの、構造的にスキル不足が原因ではなく、勤務時間が深夜におよび、労働条件が悪いのに給与が低いからだと分かった。臨床検査機関の4分の1強は、1名以上の長期欠員があると報告されている。
調査結果によれば、採用が難しいこ …
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