気候変動で経済崩壊
貧困地域を見捨てるべきか?
石炭産業の終焉は、地球温暖化で引き起こされる経済的激変にどう対応するか、議論を深めるよい機会になる。 by Richard Martin2016.08.08
米国の石炭産業は何十年にもわたって、確実に衰退してきた。しかし、2012年以降、安価な天然ガスが利用できるようになって環境規制が厳しくなり、石炭火力発電所からの二酸化炭素排出量を抑制するようになると、衰退は完全な崩壊へと移行した。労働統計局によれば、2012年から2015年までに、炭鉱業の雇用は8万9800人から5万5500人へと38%減少した。石炭ビジネスは景気循環と無縁ではないが、今回はやや異なる。排出量制限は連邦政府のクリーン・パワー・プランなどの規制によってかつてなく厳しくなり、公益事業業界は より持続可能な電力供給源を探し求めている。この仕事が戻ってくることはない。
雇用喪失はかつて米国の石炭産業の中心地だったアパラチア(米国東部、ニューヨーク州からミシシッピ州までを指す)地域に集中している。ウェストバージニア州南部やケンタッキー州東部の炭鉱業地域の失業率は全国平均の2倍で、一部の地域では実質失業率(事実上、労働力とは見なされない人を含む)は50%近い、と地元当局者は語る。
しかし、問題を石炭需要の減少だけに結びつけ、地域の課題として切り捨てるのは間違っている。多くの点で石炭経済の消失は前兆にすぎず、やがて気候変動によって他地域や他部門にも大変動が起きる。地球温暖化によって、農業から不動産業に至る産業がダメージを受ける可能性が高いのだ。これらの部門への影響は石炭産業とは異なる形で現れるとしても、結果は同じだ。米国の広範な地域が経済的に破壊される。今のところ、こうした混乱を管理できる包括的、公正かつ効果的な戦略についての論考はほとんどない。その意味で、ウェストバージニア州とケンタッキー州の石炭産業の消滅は、将来発生するはるかに巨大な課題の前兆に過ぎない。
「ここで起こった現実は、あまりにも急速でした。誰も準備ができていなかったと思います」と、ドノバン・ベケット医師は語った。ベケット医師はウェストバージニア州の故郷の町にウィリアムソン保健ウェルネスセンターという無料診療所を設立した。
「誰かが真に役立つ解決策を思いつけるかどうか、私にはわかりません」
砂嵐
気候変動が起こし得る経済的な影響については、多くの発表があるが、労働者や地域社会への影響を緩和する方法の研究はずっと少ない。ラトガース大学のロバート・コップ准教授(気候科学)とカリフォルニア大学バークレー校のソロモン・サン教授(公共政策学)が率いる研究チームによる『気候変動の経済的リスク』によると、気候変動によりもっとも影響を受ける地域は沿岸部だ。2050年までに、海面上昇による資産的損失は合計660億~1060億ドルになると推定する。アイオワ州やネブラスカ州などでは、気温上昇や深刻な干ばつに弱い農作物に依存しており、1人当たり年間所得は今世紀末までにほぼ2000ドル減少し得る。(いくつかの州は農作物の生育期間が長くなることの恩恵を受ける。ノースダコタ州の1人当たり所得は、研究チームによれば、年2500ドル以上増加し得る)
気候変動によって受ける経済的影響の1つは労働生産性だ。特に屋外や室内でももともと高温な環境で長時間働く労働者の労働生産性が低下する。コップ准教授とサン教授は、農業、建設業、公益事業、製造業の4部門が高リスクだと特定した。4部門に関わる労働者の米国の約4分の1を占めるが、GDPでは5分の1に届かない。ただし、4部門に大きく依存するルイジアナ州、インディアナ州、アイオワ州では …
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