KADOKAWA Technology Review
×
How Biotech Patents Are Linked to U.S. Food Productivity

バイオテクノロジーは食糧生産量を本当に増やしたのか?

食糧問題解決のためにさまざまな方法で農作物の品種改良が進められている。だが、新しい品種の開発によって、本当に食糧生産量は増えているのだろうか。フランスの研究者は「特許」に目をつけた。 by Emerging Technology from the arXiv2017.09.05

世界の人口が増えるにつれて、農業生産者、経済学者、政策担当者は、食糧生産のペースを維持できるかどうか、早急に知る必要がある。

フランスのトップクラスの技術系公立高等教育機関グループであるパリテク(ParisTech)に属する国立先端技術学校(ENSTA)の学生マリアム・バリらの研究により、この複雑な問題を解決する見通しが得られた。

バリーらは、1985年以降の米国におけるハイブリッド・コーン(一代雑種とうもろこし)の収穫量を測定し、新しい品種を発表するバイオテクノロジーの特許の傾向と収穫量との関係を研究した。特許が食糧生産力の先行指標として使用できるのではないかと考えたのだ。

食糧の供給に関しては、長らく恐ろしい歴史がある。1798年のトーマス・マルサスの有名な予測は、人口の増加が食糧の供給能力を追い越し、広範囲な飢餓は避けられないとした。しかし、産業革命が収穫高を大幅に改善したため、マルサスの予測は根拠のないものになった。

食糧生産は、20世紀半ばにもう1回、劇的な変化を遂げた。このいわゆる緑の革命と呼ばれる、殺虫剤、除草剤、肥料の普及と機械化の拡大によって、多くの作物の生産性が着実に向上したのだ。

最近では、バイオテクノロジーによる革命も影響を与え始めている。米国では多くの作物が遺伝子組換え作物で占められており、生産性は向上していると考えられてる(ただし、世界の他の地域ではこの技術について慎重だ)。

ハイブリッド・コーンは、米国の食糧供給に欠かせない存在だ。ハイブリッドは2つ以上の自殖系統の交配により、多くの優れた性質を得られる。特許や後の引用では、1エーカー(約0.4ヘクタール)あたりの収穫量の改善が報告されることが多い。

バリーらは、1985年以降のハイブリッド・コーンに関するすべての特許を調べてデータを収集し、さらに収穫量改善に関するデータも調査した。バリーらの目的は、特許に記載された収穫量の向上が実際に観察された収穫量と一致するかどうかを確認することだった。

実際の正確なデータを得ることは難しいが、重要な情報源となったのが、公有地の提供を受けた大学である。19世紀に、将来の発展のために米国政府から土地を贈与された大学の多くでは、土地を耕作し、何年にもわたって作物収穫量を公表してきた。

バリーらは、オハイオ州、ケンタッキー州、イリノイ州の3つの州にある大学からデータを収集した。収集したデータは、1990年代半ばから現在にまでおよび、特許やその他の情報源から得られるデータよりはるかに詳細だ。収集したデータには、使用された種子のブランド、収穫量、その他の詳細が含まれている。

最後に、バリーらは、特許に記載されたデータと実際の収穫量と比較して、特許が予測した収穫量を評価した。

この結果から、ハイブリッド・コーンの収穫量はかなりの率で改善していることがわかった。バリーは、「特許の予測値、実地試験データ、予測モデルなどいくつかの異なる基準において改善率は特許のデータにかなり近く、年間1.2%〜2.4%でした」と説明する。

一方、世界人口は毎年約1.1%の割合で増加しており、米国の人口も約0.8%ずつ増加している。

米国のトウモロコシの生産性は向上しており、過去の生産量と比べて確実に改善しているように見える。米国における1エーカーあたりのトウモロコシの平均収穫量は、1940年から2015年の間に5倍以上にも達している。こういった生産性の向上が、世界の他の地域にも起こるかどうかは、まだわからない。

ただ、特許データから将来の成長の予測することは、あまり期待できないようだ。バリーらによると、2008年以前は特許データが実際に観測された増加率と正確に一致していた。しかし、2008年に特許と引用の使われ方が変わった。1つ考えられることは、当時、遺伝子組み換え食品の世界が、モンサント(Monsanto)やシンジェンタ(Syngenta)のような少数の企業によって支配されていたということだ。そして、新しい種子の特許手続きでは倫理性が問われるようになった。特許手続きに関する変更の背後にはこうした要因がありそうだ。

バリーらの研究は、複雑な食糧生産の世界に光を当てた興味深いものだ。自らの食糧を賄う能力は、明らかに人類にとって重要な優先事項の1つであり、この研究は米国のような先進経済において、生産性を測定し、分析することの難しさを明らかにしている。

それでもなお、世界の多くの地域は、依然として食糧不足に苦しんでいる。このような分析を世界規模で実施する困難は計り知れないが、世界中で切望されていることは確かだ。

(参照:arXiv:org/abs/1706.05911:Food Productivity Trends from Hybrid Corn: Statistical Analysis of Patents and Field-test data)

人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
エマージングテクノロジー フロム アーカイブ [Emerging Technology from the arXiv]米国版 寄稿者
Emerging Technology from the arXivは、最新の研究成果とPhysics arXivプリプリントサーバーに掲載されるテクノロジーを取り上げるコーネル大学図書館のサービスです。Physics arXiv Blogの一部として提供されています。 メールアドレス:KentuckyFC@arxivblog.com RSSフィード:Physics arXiv Blog RSS Feed
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る