現地ルポ:ドローンが変える
アフリカ救急医療の現場
先進国ではドローンを使った宅配サービスの実験が始まっているが、インフラがまだ整っていないアフリカ・ルワンダではすでにドローンが救急医療に欠かせない血液輸送の役割を担っている。ルワンダ政府とジップラインが始めた最新の取り組みと課題を現地で聞いた。 by Jonathan W. Rosen2017.08.25
ルワンダのカブガイ群病院が建つ丘の斜面上に、蚊が飛ぶようなドローンの音が響く。姿はまだ見えない。約30メートルの上空を見上げると、小さな飛行機の姿が霧の切れ目から浮かび上がってはすぐにまた消え、荷物を投下できる高さまで楕円を描きながら高度を下げてくる。少し静かになった後、突然姿を現すと、カブガイ郡病院の救急病棟の屋根の上を飛び、ドンという音とともに病院内の私道に荷物が落とされた。地面には、パラフィン紙と生分解性のテープでできたパラシュートがついた靴箱サイズの赤い段ボール容器が落ちている。一見変わったこの仕掛けは子どもの図工の宿題のように見えるかもしれないが、中身は人命を救うものだ。しっかりと梱包された荷物の中には、2人分の血液が入っている。おそらくじきに手術や合併症を伴う分娩、あるいは乳幼児のマラリア治療のための輸血に使われることになるだろう。
- この記事はマガジン「SDGs Issue」に収録されています。 マガジンの紹介
ビニールバッグに入った血液は、ルワンダ政府とシリコンバレーに拠点を置くロボット工学企業・ジップライン(Zipline)が共同で2016年後半にスタートしたカブガイ郡病院に血液を配送するプロジェクトの一貫で、ドローンによって配送された初めての商品だ。このサービスは開始されて間もないが、現在21の施設との契約があり、そのうち7施設にはすでに配送が始まっている。そして、すでに影響を与えている。これまで、血液製剤を入手するには病院スタッフが週に3回、ルワンダの首都キガリまで60キロメートルの距離を3〜4時間かけて往復していた。救急の場合はそのために取りに行くことになるが、しばしば人命を脅かすほど時間がかかることもあった。だが今は、検査技師がスマホを使って注文するだけで、病院から5キロメートルの距離にあるジップラインの物流拠点からドローンが15分で配送してくれる。2月までカブガイ郡病院長を務めていたエスポワール・カジブワミ医師は、「以前は、血液が必要になると調達するのが非常に大変でした」と話す。救急の場合は、血液が到着するのを待つよりキガリにある国立病院に患者を搬送することがよくあったという。
ジップラインの血液配送のほかにもドローンを使ったさまざまなサービスが始まりつつある。3年前にプライム・エアー(Prime Air )のサービスを発表したアマゾンは、2016年12月、ドローンを使った初の宅配サービスを英国の農場で始めた。その1カ月前には、セブン・イレブンがネバダ州リノで、ピザやスラーピー、市販薬のオンデマンド配達をドローンで77回実施した。運営する基金から110万ドルを拠出しジップラインの活動を支援している米運送大手UPSは、2月に特有の茶色のトラックの屋根からドローンを飛び立たせ荷物を配送した。セブン・イレブンのドローンも手がけたドローンメーカーのフラーティー(Flirtey)は、物資の不足する米国アパラチア地域で医薬品の配送をテストした。別の米国企業、マターネット(Matternet)はユニセフと共同で、マラウイの乳幼児にHIV検査キットを配送する試験飛行を行った。
だが、救急医薬品の定期配送サービスはジップラインが世界初だ。固定翼を装備したジップラインのドローンは、マルチコプター・タイプのドローンよりも飛行距離が長く、悪天候への対応力も高い。
ジップラインは2011年、ロモティブ(Romotive)という社名で設立された。当初はアイフォーン(iPhone)を使ったロボペットのロモ(Romo)のメーカーとして悪名を得たが、ケラー・リナウドCEOは大きな社会的影響力を持てる製品を作ろうと決意する。まもなく、リナウドCEOはジップラインの共同創業者ウィリアム・ヘッツラーとキーナン・ワイロベクと共に発展途上国で調査を行い、ドローンを使った物流で人命を救おうと考えた。
リナウドとヘッツラーは、ハーバード大学の1年生の時にロッククライミングのジムをキャンパス内に一緒に作った仲だ。2014年、2人は2回にわたって調査旅行に出かけ、地元のNGOで働く研究者に会った。その研究者はテキストメッセージをベースにした健康監視システムを構築していた。地域の医療関係者ネットワークを通してシステムが集めたのは、ヘビにかまれた傷、狂犬病感染の疑いのある患者、分娩後の多量出血など全国規模の数百におよぶ救急医療データだった。だが、遠隔地の患者に適時に治療を施すのは、非常にコストがかかるか輸送体制的に不可能であることが多かった。「このデータベースには人々の悲劇の物語がたくさん詰まっているのです。明らかに足りないのは、必要性に素早く応え、製品を容易に入手できるようにすることでした」と30歳のヘッツラーはいう。視察から戻った2人はそのニーズを満たすシステムを構築できる手応えを感じていた。
ワイロベクの技術指導の下、ジップラインの技術者たちはハーフムーンベイ(カリフォルニア州)にある本社で、2台の電動モーターを搭載し、どんな天候でも1.5キログラムの物資を輸送可能な航空機の開発に取りかかった。テクノロジーの進歩のおかげで、ルワンダはジップラインのビジョンを試す理想的な場所となった。東側の隣国タンザニアと似て、小さな東アフリカの国ルワンダは、道路整備の遅れに苦しむ農村地帯の人口が圧倒的だ。ルワンダにある478カ所の診療所の大部分および、35カ所の郡病院の多くは、手入れの行き届かない未舗装の道路しかアクセスがなく、その上多くの場合、かの有名な「千の丘」を越えなくてはならず、特に年に二度ある雨期には車で行くことは困難を極める。だがタンザニアと違い、ルワンダはコンパクトだ。メリーランド州と同じ広さの国土に1 …
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